きっとそういうこと

最終話(御幸視点)

と言う存在に出会い、恋人関係になってかけがえのない存在に変貌していった。

自分にとって彼女は野球と近い存在だと思う。

何気なく始めた野球から面白さが分かりハマって行く。

決して平たんな道では無いが、いつまでも続く道。

これから先、家族も増えて賑やかに過ぎて行くだろう。

いずれ野球から離れる日が来るかもしれない。

「いざとなったら私が養ってあげるから」

冗談交じりで言った彼女の台詞だが、あれはきっと本音だろう。

スポーツ選手と怪我は切っても切れない関係だ。

その時が来て俺が無理をしない様にと言う意味が含まれた言葉。

きっと高校時代の怪我を野球部の連中に聞いたんだろうな。

そういう些細な気配りが出来る彼女を大事にしていきたい。

そして自分も彼女にとって、そういう存在で有り続けたい。

「一也、ベッド届いたけど」

「ああ、いいよ。俺が対応するから」

「お願いします」

大きなお腹を撫でながら彼女が笑う。

今、のお腹には新しい命が宿っているのだ。

それが分かってから引越しをして、新しい家族が生まれてくる準備を整えている。

寝室にベビーベッドを組み立てていると、がコーヒーを持ってきてくれた。

「どう?出来そう?」

「もうすぐな」

カップを受け取り口を付ける。

その横に「よいしょ」とが座った。

「これからは三人になるんだね」

「だな。俺もも兄弟いねえし、もう一人は欲しいよな」

「あら、九人じゃないの?野球チーム作りたいとか」

「九人全員男とは限んねえじゃん」

「確かに。女の子だったら嫁に出さないとか言い出しそう」

「んーさすがにそれはねえな」

「そうなの?」

「面白くはないだろうけど。自分の方が確実に先にいなくなるんだし」

「変な所でリアリストよね」

「幸せになって欲しいしな。俺みたいに」

「私も幸せなんだけど?」

くすっと笑ったを背後から抱きしめる。

この温もりが幸せの証なのかもしれない。

「男かな?女の子かな?」

大きくなったお腹を背後から撫でる。

「どっちでも良いかな」

「まあな」

そして俺達の様な相手に出会って幸せになって欲しい。

そう考えると親父はどうなんだろう?

連れ添った相手は俺の母親一人。

今は寂しくないのだろうか?

いや、寂しいに決まっている。

けれど次の相手を作らないのは、それだけ母の事を思っているからなのかもしれない。

「人の幸せも人それぞれなのかもな」

「当たり前でしょ?同じ訳がないじゃない」

「そうなの?」

「友達にも金は稼ぐけど不規則な生活の旦那って大変そうって言われるもの」

「あー・・・」

「一也だって言われる時あるんじゃない?」

「まあ、確かにな」

「だから生まれてくる子も、私達と同じじゃないよ。それでも幸せならそれでいいし」

「さすが国語教師」

「茶化さないの」

「まあ、子育て終わったら、今度は二人でゆっくりしようぜ」

「じゃあ、のんびり出来る様に今のうちにバタバタしておかなきゃ」

腕の中のの笑って体が振動する。

些細な事で満たされる自分が幸せで、腕の中のも幸せなんだろう。

何十年先もそう出来る様にしないとな。

「よし!ベッドも出来たし、飯にしようぜ」

俺は立ち上がっての手を引く。

微笑んでいるが頷いて立ち上がり、手を繋いだままキッチンへ向かった。


【終わり】


2017.04.21

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