きっとそういうこと

08話

大学も3年生が終わろうとしている。

一也とはたまに喧嘩をするけれど、順調に付き合っている。

彼もついに1軍に上がり、片手程度でも試合に出る事もあった。

そしてお世話になった結城先輩が卒業し、プロ野球選手となる。

それも一也と同じチームだ。

「哲さんが入寮してきたけど将棋に付き合わされんだよ」とボヤいていたが、楽しそうだった。

私はと言えば、春先に教育実習がある。

頼みに行ったのは当時の担任なのだが、担当教科の加減で片岡先生に付く事になった。



「今日から三週間、皆さんと勉強するです。よろしくお願いします」

先生はここの卒業生だ、遠慮なく質問などすると良い」

片岡先生のアドバイスのお蔭か、年齢が近いからか、色んな子が話しかけてきてくれる。

女の子なんかは恋愛相談とかも。

けれど生徒との時間だけでは無いのが実習。

明日は何をするのか、何を得ているのか、様々な事を書かなければならない。

そして毎日担当の先生にチェックしていただくのだ。

明日の授業の準備をしていたら遅くなってしまった。

なので片岡先生がいらっしゃる野球部のグランドに向かう。

すると先生はグランドでバッドを振っていて声が掛けられない。

さん」

声が掛けられた方を見ると、建物から高島先生が手招きをしている。

近寄ると「此処に来られるから待っていて」と中に案内された。

先生は用事があるらしく出ていってしまい、私は一人残された。

窓から見える片岡先生は、まだ終わる様子が無い。

部屋を見渡すと沢山のノートがあった。

表紙には『スコアブック』とあり、サインペンで日付が書かれている。

すると私が在学中の頃の物があり、思わず手に取ってみる。

そこに書かれている物が何なのかは分からないが、御幸だけでは無い懐かしい名前が書かれている。

更に遡ると結城先輩の名前も出て来た。

「凄いいっぱいだ・・・」

スコアブックなのだから、きっとこれは試合の事が書かれているのだろう。

三年間でこれだけの量の試合をしていたのか。

御幸の名前が書かれた三年分を積み上げてみる。

ここに彼の三年間が詰まっているのだ。

「待たせたな」

感慨にふけっていると、片岡先生が入って来た。

「あ、勝手にすみません」

先生が私の方に歩いてきて、スコアブックを捲った。

「ちょうどがいた頃だな」

「はい。彼等の三年間を見ていました」

「そういえば結城と大学が同じだったな」

「はい、色々教えて貰ったり、大学でもお世話になりました」

「そうか」

片岡先生は優しく微笑んで、私が差し出した書類を受け取った。



実習が始まって15日目。

放課後に放送で呼び出され、野球部のグランドに向かった。

「あ・・・」

グランドのホームベース付近に監督と見慣れた二人が立っていた。

一也と結城先輩だ。

「よっ」

「久しぶりだな、先生」

「いや、ちょっと結城先輩にその呼び方をされるのは」

「何かおかしいか?」

「はっはっはっ。哲さんが生徒じゃないっすからね」

そして片岡先生と四人でこの間の部屋に行く。

「あ、片岡先生、まだ書類は」

「かまわない。急に呼び出したからな」

「でも何で二人が?」

「母校への挨拶と、お前を見に来た」

が先生やれてんのかと思って。ちゃんと先生してんじゃん」

「まだまだだよ」

「二人はまだ付き合ってたのか」

「そうです」

「え?まだ?」

「卒業前に良く一緒にいたのを見かけたからな」

なんだか恥ずかしくなってきた。

ちょうどその時、部屋をノックする音が。

先生いらっしゃいますか?」

顔を覗かせたのは副担任をしてるクラスの男子生徒だった。

「あ、日直!それじゃあ、失礼します」

「ああ、またな」

「頑張れよ~」

三人に頭を下げて男子生徒と部屋を出て教室に向かった。

日誌をチェックした後、今度は自分の書類作成にかかる。

あれこれと頭を悩ませながら書類を完成させていく。

今日もまた、遅くなってしまった。

再び先ほどの部屋に行くと、一也と結城先輩はまだいた。

片岡先生に書類を出すと、今日は二人と帰って良いと言われる。

「邪魔じゃないのか?」と言われたけど三人で夕飯を食べに行く事にした。

トレーニングがてら走って帰ると言う結城先輩と別れ、一也が送ってくれる事になった。

「卒業したら青道で教えるの?」

「枠があればそうしたいけどね」

「ふーん。俺との同棲は?」

「うーん・・・。家事が出来るかな」

「俺がいるじゃん」

「一也にやらせるわけにいかないし」

「今だってやってるし」

「でも倍になるんだよ?」

「家事は昔から嫌いじゃないしな」

「けど」

「ま、慣れんだろ」

「そうかな~」

「そうそう」

言いくるめられてる気がしないでもないが、それも良いかな?

成る様に成る・・・のかもしれない。


2017/3/14

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