大学も3年生が終わろうとしている。
一也とはたまに喧嘩をするけれど、順調に付き合っている。
彼もついに1軍に上がり、片手程度でも試合に出る事もあった。
そしてお世話になった結城先輩が卒業し、プロ野球選手となる。
それも一也と同じチームだ。
「哲さんが入寮してきたけど将棋に付き合わされんだよ」とボヤいていたが、楽しそうだった。
私はと言えば、春先に教育実習がある。
頼みに行ったのは当時の担任なのだが、担当教科の加減で片岡先生に付く事になった。
「今日から三週間、皆さんと勉強するです。よろしくお願いします」
「先生はここの卒業生だ、遠慮なく質問などすると良い」
片岡先生のアドバイスのお蔭か、年齢が近いからか、色んな子が話しかけてきてくれる。
女の子なんかは恋愛相談とかも。
けれど生徒との時間だけでは無いのが実習。
明日は何をするのか、何を得ているのか、様々な事を書かなければならない。
そして毎日担当の先生にチェックしていただくのだ。
明日の授業の準備をしていたら遅くなってしまった。
なので片岡先生がいらっしゃる野球部のグランドに向かう。
すると先生はグランドでバッドを振っていて声が掛けられない。
「さん」
声が掛けられた方を見ると、建物から高島先生が手招きをしている。
近寄ると「此処に来られるから待っていて」と中に案内された。
先生は用事があるらしく出ていってしまい、私は一人残された。
窓から見える片岡先生は、まだ終わる様子が無い。
部屋を見渡すと沢山のノートがあった。
表紙には『スコアブック』とあり、サインペンで日付が書かれている。
すると私が在学中の頃の物があり、思わず手に取ってみる。
そこに書かれている物が何なのかは分からないが、御幸だけでは無い懐かしい名前が書かれている。
更に遡ると結城先輩の名前も出て来た。
「凄いいっぱいだ・・・」
スコアブックなのだから、きっとこれは試合の事が書かれているのだろう。
三年間でこれだけの量の試合をしていたのか。
御幸の名前が書かれた三年分を積み上げてみる。
ここに彼の三年間が詰まっているのだ。
「待たせたな」
感慨にふけっていると、片岡先生が入って来た。
「あ、勝手にすみません」
先生が私の方に歩いてきて、スコアブックを捲った。
「ちょうどがいた頃だな」
「はい。彼等の三年間を見ていました」
「そういえば結城と大学が同じだったな」
「はい、色々教えて貰ったり、大学でもお世話になりました」
「そうか」
片岡先生は優しく微笑んで、私が差し出した書類を受け取った。
実習が始まって15日目。
放課後に放送で呼び出され、野球部のグランドに向かった。
「あ・・・」
グランドのホームベース付近に監督と見慣れた二人が立っていた。
一也と結城先輩だ。
「よっ」
「久しぶりだな、先生」
「いや、ちょっと結城先輩にその呼び方をされるのは」
「何かおかしいか?」
「はっはっはっ。哲さんが生徒じゃないっすからね」
そして片岡先生と四人でこの間の部屋に行く。
「あ、片岡先生、まだ書類は」
「かまわない。急に呼び出したからな」
「でも何で二人が?」
「母校への挨拶と、お前を見に来た」
「が先生やれてんのかと思って。ちゃんと先生してんじゃん」
「まだまだだよ」
「二人はまだ付き合ってたのか」
「そうです」
「え?まだ?」
「卒業前に良く一緒にいたのを見かけたからな」
なんだか恥ずかしくなってきた。
ちょうどその時、部屋をノックする音が。
「先生いらっしゃいますか?」
顔を覗かせたのは副担任をしてるクラスの男子生徒だった。
「あ、日直!それじゃあ、失礼します」
「ああ、またな」
「頑張れよ~」
三人に頭を下げて男子生徒と部屋を出て教室に向かった。
日誌をチェックした後、今度は自分の書類作成にかかる。
あれこれと頭を悩ませながら書類を完成させていく。
今日もまた、遅くなってしまった。
再び先ほどの部屋に行くと、一也と結城先輩はまだいた。
片岡先生に書類を出すと、今日は二人と帰って良いと言われる。
「邪魔じゃないのか?」と言われたけど三人で夕飯を食べに行く事にした。
トレーニングがてら走って帰ると言う結城先輩と別れ、一也が送ってくれる事になった。
「卒業したら青道で教えるの?」
「枠があればそうしたいけどね」
「ふーん。俺との同棲は?」
「うーん・・・。家事が出来るかな」
「俺がいるじゃん」
「一也にやらせるわけにいかないし」
「今だってやってるし」
「でも倍になるんだよ?」
「家事は昔から嫌いじゃないしな」
「けど」
「ま、慣れんだろ」
「そうかな~」
「そうそう」
言いくるめられてる気がしないでもないが、それも良いかな?
成る様に成る・・・のかもしれない。
2017/3/14