きっとそういうこと

14話(御幸視点)

帰宅してテレビを点ければ自分の報道が取り上げられている。

試合の後も報道陣に囲まれそうになるのを逃げる様に球場を出た。

ここまで報道が大きくなれば、の耳に入るのも時間の問題。

その時、テーブルに置いてあったスマホが鳴り出した。

からかと思えば倉持。

「もしもし」

『ヒャハハ!お前、相変わらず笑かしてくれるよな』

「うるせっ!」

『あれだろ?何でアナウンサーなんだよ』

「知らねえよ。俺の方が聞きたいくらいだ」

『まあ、背格好似てるしな』

「そうなのか?」

『お前・・・この間インタビューされてたじゃねえか!!!』

「はっはっはっ」

『笑って誤魔化すな!お前が知らねえなら利用されてんのかもな。で、お前も利用すんだろ?』

相変わらず鋭いヤツ。

最後に続いた「お前、腹黒いしな」は聞かなかった事にしておいて。

広報の担当者も、最近1軍での試合が増えて注目され出したのを利用してるだろうと言われた。

まあ、俺としてもを表舞台に出したくねえし、丁度良いとは思ってる部分がある。

『で?肝心のは何て言ってんだ?』

「今、修学旅行の引率でいねえんだわ」

『なにっ!?俺達が行けなかった修学旅行に2回も行ってんのかよ!!』

話題が逸れて気が紛れた。

電話を切ると、通話中にメッセージを受信してたらしい。

相手はからで『明日帰ります』だった。

メッセージ1つでささくれだった感情が穏やかになる。

早く帰って来てくれてもナイターの試合で俺がいない。

「早く逢いたい」

それだけを書いてメッセージを送信した。



今日も報道陣を避ける様にして帰宅。

玄関を開けると部屋に電気が点いている。

けれど動いている気配が無い。

リビングに続くドアを開けると、机に突っ伏して寝ているがいた。

着ていた上着を脱いで彼女に掛けてキッチンへ。

想像通り夜食が出来ていた。

それを温め直して彼女の寝ているテーブルへ運ぶ。

本当なら風邪をひくからベッドに運ぼうと思ってたけど、

とにかく彼女を見ていたかった。

あわよくば俺の立てる音で起きてくれないだろうか。

その期待に応えるかの様に彼女が目を覚ました。

長いまつ毛が上下して、顔を上げる。

「あ、おかえり・・・。起こしてくれれば良かったのに」

「気持ち良さそうに寝てたし。あ、これ、うまいよ」

「ああ・・・うん」

もう風呂に入って化粧を落としたのか、目を擦っている。

こういう所が可愛いんだよな~。

「あ、ニュースみたよ」

「やっぱり?」

「うん。あれって私だよね?」

「そうそう」

「何であのアナウンサーなのかな」

「倉持が言うには背格好が似てるらしいぜ?」

「え?そうなの?というか一也は会ってるよね?」

「らしいな」

「まさか・・・覚えてないの?」

「はっはっはっ」

「信じられない」

「広報や他の人にも言われたな、それ」

「・・・・・・」

「昔からそうだけど、周りの為に野球してねえし」

「それ倉持も言ってた。御幸は周りに愛想を振りまかない奴だったって」

「今はそこまで出来ねえけど。やっぱファンは大事だし」

そして広報と話した内容を彼女に伝える。

今日になって相手側から黙秘して欲しいと頼まれた事など。

「売名行為?」

「どうだろうな。とりあえずの隠れ蓑として俺も利用させて貰うけど」

「相変わらず腹黒いなー」

「倉持にも言われた。利用されたから利用仕返してるだけだよ」

「多分、それだけじゃないと思うけどね~」

「そうなの?」

「・・・・・・まあ、一也には理解不能だと思うよ」

が腕を伸ばして体を伸ばす。

俺は食器を下げて彼女の横に立つ。

「何?」

椅子をずらして彼女を抱き上げる。

ベッドまで運んで彼女を降ろし、その上に覆いかぶさった。

「明日土曜だし休みだろ?」

「そうだけど」

「離れてた分、癒されたい」

「私も一也不足を補いたいかな」

首に回される腕より先にキスをして、甘い時間を貪った。


2017/4/14

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