きっとそういうこと

13話(御幸視点)

24歳の誕生日を迎える前ににプロポーズをして、年始にの両親へ挨拶に行った。

結婚式は次のシーズンが終わった頃に考えている。

そして年明け早々青道高校に行き、監督にも報告をした。

流石に「礼ちゃん、先越してごめんね」とは軽口でも言えない。

「それでさんは苗字を変えるの?」

「変えるでしょ」

「年度の変わり目で考えてます」

「それの方が区切りが良いだろう」

「そういうもんですかね?」

、御幸の事、よろしく頼む」

「え?いやっ・・・私の方こそ、今後もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

「高島先生、先生に先を越されましたな、はははは」

キラリと礼ちゃんのメガネが光る。

結局俺では無く太田部長が地雷を踏んだ。




オフの間に球団側と相談をした結果を踏まえて式場を押さえる。

シーズンが始まる頃、が2年生の担任になった。

学校側にも結婚の意向は伝えてあり、問題はなさそうだ。

が夏休みの間にある程度の式の準備を進めてくれた。

式まで一か月切った時、彼女が修学旅行の引率でこれから出かけてしまう。

「今日も試合なんだから、ゆっくり寝てて良いのに」

「これから4日は会えないんだぜ?」

「前はそのくらい普通に会ってなかったのに」

「前は前、今は今。つーわけで、怪我とかしないでくれよ」

「それ、私の台詞でしょ?もう・・・。それじゃあ、行ってきます」

玄関を出て行こうする彼女の腕を掴んで顔を寄せる。

口紅の塗られた唇に自分のそれを重ね合わせる。

あまり長くしてると口紅落ちるしな。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

エレベーターに乗り込むまで彼女を見送ってドアを閉める。

彼女は帰ってくるのに部屋が冷たく感じられた。

「なんだかな・・・」

思わず頭を掻く。

彼女がいない時間は今までにだってあったはずなのに。

「今日はナイターだし、もう少し寝るか」

まだ温もりが残るベッドにもぐりこんだ。

起きて準備をして球場に向かう。

「お?今日は愛妻弁当じゃないのか」

「今日から数日いないんすよ」

「逃げられたか!!!」

「ただの修学旅行の引率っす」

「若い男が選り取り見取り」

とか言ってる先輩は置いといて、昼も夜もメンバーと食べる事に。

彼等と別れて家に帰るといつもはどこかしらに明かりがあるのに今日は無い。

上着を脱いでスマホをテーブルに乗せる。

するとタイミング良くそれが振動した。

もう一度手にするとメッセージを受信していた。

確認すればの名前がある。

『久しぶりに来た!懐かしい!!』

文字と一緒に写真が添付されている。

そしてすぐ『今度一緒に来ようね』と書かれている。

野球部員は必ずと行って良い程、修学旅行とは縁が無い。

沢村達も行けなかったしな。

高校生のは修学旅行で思い出があったのだろうか?

「きゅうしゅう・・・も、いいけど・・・しんこんりょこう・・・が、さきっと」

そして既読の文字が付いてから少し経った時、新しい文字が出て来た。

『すごく楽しみ』と返って来た。

「ぜったいに・・・いっしょに、ふろ、はいろうっと」

すると即レスで『エッチ!!』の文字が。

そこはスケベとかじゃねえのかよと腹を抱えて笑った。

一緒に入るのが初めてってワケじゃねえけどな。

20歳そこそこの時に「一人の女で満足出来んの?」と聞かれた事があったっけ。

逆に「何で満足出来ねえの?」って返して会話が終わった。

いや、本当。

同じ事なんて1つも無い。

それを知らない相手が可哀想に思えた。




「あ、御幸、いたいた。広報の人が呼んでるぞ」

「え?俺?」

「結婚式の事じゃねえの?知らないけど」

ロッカールームで試合の準備をしていたけど、着替えだけ済ませてそこを出る。

俺を呼んでいるであろう人物を探しながら廊下を歩いていると前からその人物が歩いて来た。

そして部屋に通され、テーブルに座る。

差し出された紙を見て、ギョッとした。

「なんすか?コレ」

テーブルの上の紙には『プロ野球選手、御幸一也熱愛発覚』の文字。

記事と一緒に載せられている写真はと手を繋いで歩いていて、彼女を見ているところ。

は前を向いていて背後から撮影されているので顔が映っていない。

ここまでなら問題は無い。

厄介なのは相手。

『お相手は○○テレビのアナウンサー藤島かおりさん』

「え?誰?」

「この間取材に来てただろ」

「そうでした?はっはっはっ」

「まだ続きがあるんだぞ」

「え?何ですか?」

「彼女の方は否定してないんだよ」

「は?」

否定してない?

だって本人じゃないのに?

どうやら、ややこしい事態に巻き込まれた様だ。


2017/4/11

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