三月のある日、突然御幸が「両親に会いたい」と言い出した。
御幸の練習が休みの時に、彼が家に来た。
「さんとお付き合いさせて頂いてます」
両親は御幸の誠実さは気に入ったらしいが、
彼が帰ってからプロ野球選手と言う不安定な職業に難を示した。
けれど結婚する訳じゃないしと認めてくれた。
御幸の父親には、何度かお邪魔しているので既に挨拶済み。
程なくして彼が入寮。
寮があるのは隣県で、簡単に会える距離ではなくなった。
しかも毎日のように練習はある。
大学に入学するまでは私が会いに行く事は出来るが、それも後少し。
「もうすぐ入学式か・・・。バイトもするんだろ?体壊すなよ」
「それ、私の台詞じゃない?無理しすぎないでね」
「1軍に上がるまでは、それなりにやらないとな。はっはっはっ」
「笑いごとじゃないし」
「はいはい」
重ねられる唇を受け止め、全てを彼にゆだねる。
意地が悪い癖に手は優しい。
「好きだ・・・」
かならず彼は言ってくれる言葉。
彼と体を重ねる時間が嫌いでは無いのだ。
「・・・あっ・・・かずやっ・・・・・・」
「おまっ・・・こんな時に・・・クソっ・・・」
初めて名前を呼んだら照れたらしい。
こんな些細な時間も好きになった。
どんどん彼に惹かれている。
それを自覚した途端、彼と会う時間が減るなんて。
4月に入ると慌ただしさが増した。
新しい事だらけで覚えるだけでも一苦労。
一也の方も練習に自主練にと大変らしい。
「早く一軍に上がらないと意味ねえし」と頑張っている。
大学では同じ青道から来た子がいるが学部が違う。
なので友達を作る事から始めなければならない。
空き時間を利用してカフェテラスに向かう。
カフェテラスと言ってもお洒落な食堂の様に大きい。
今日のランチと一緒に飲み物を頼んで、窓際の席に座る。
陽がポカポカとして気持ちが良い。
食事を終えてトレイを脇に寄せてプリントを取り出す。
これから講義を選ばなくてはならない。
「どうしようかな・・・」
ふと顔を上げると見慣れた顔があった。
ただ向こうが覚えているか分からないので会釈をする。
するとその人がこちらに歩いて来た。
「すまないが、どこで会った?」
ああ、やっぱり覚えて無かったか。
挨拶した事を少し後悔をする。
「青道高校で同じ体育委員をしてたです」
「石灰をバラまいた?あのか?」
「そのです~~~」
忘れて貰いたい過去なのに、そういうもの程印象を与える。
体育祭の準備でライン引きをしている時、自分でも上手く書けたと調子に乗ったらライン引きを蹴飛ばして中身をぶちまけた。
書いたラインだけでは無く、余計な手間を増やしてしまったのだ。
「その節はお世話になりました」
「お礼を言われる事はしてないぞ?」
頭に?マークを浮かべて良そうな顔。
器が大きいのかただの天然か読めない人だな。
「講義の選択書類か?」
「あ、はい。何がどうとれば良いのか謎でして」
「そうか。相席してもいいか?教えてやるぞ」
「あ、はい!お願いします」
すると結城先輩は席を離れて注文に向かう。
何人かの人達といるようだが・・・悪い事をした。
と思ったのに、その人達まで全員来た!
それから自己紹介をしあい、同じ学部の先輩に色々教えて貰った。
その中には女の先輩もいて、野球部のマネージャーをしているらしい。
「はサークルに入ってるのか?」
「いえ、バイトをしようと思って」
「そうか。サークルとかに入っていないならマネージャーを頼もうかと思ったんだがな」
「すいません」
「ねえねえさん、彼氏いるの?」
「えっと・・・・はい」
「えーマジでー?いつから付き合ってんの?」
「2月くらいです」
「青道のヤツか?」
「あー・・・・・・」
「?俺の知り合いか?」
「えっと・・・・・・御幸です」
「ああ、なるほど」
「え?誰??」
するとガタンと大きな音を立てて女の先輩が立ち上がった。
「あ・・・えっと、先に行くね」
「ん???」「用事思いだした」
そうして行ってしまった。
「で?哲の知り合い?」
「ああ、プロに行った後輩だ」
「げっ!!マジか」
「しばらく会っていないが、元気か?」
「だと思います。あまり会えていないので」
そして一也の事などを話し、結城先輩達と別れた。
『え?哲さんと知り合いなの?』
「委員会が同じだった」
『なるほど。哲さん元気?』
「二人で同じ事言ってるよ。元気そうだよ」
『そっか。大学にイケメンいた?』
「知り合いのキャッチャー程のはいないかな」
『ふーん。せっかくのキャンパスライフなのにな』
「勉強しに行く場所ですから」
夜に掛かって来た電話で近況を話しあい、電話を切った。
2017/2/24