きっとそういうこと

15話(御幸視点)

例の報道があってから2週間が経過した。

今日は試合が無いから練習の為に球場入りする。

ロッカールームに歩いて行く時曲がり角で「御幸」と声が掛けられた。

声の主は広報の人で、練習前に話しがあると言われた。

指示されたミーティングのドアを開けると、見覚えのある女性が座っていた。

その人は立ち上がって頭を下げたので、俺も一応それに倣う。

「御幸、藤島かおりさんが話があるそうだ」

「藤島?ああ・・・」

苦笑いしていた広報に続き、彼女も苦笑い。

「覚えて無かったんですね」

「あ、すいません」

「それでは5分だけ」

そう言い残して広報が部屋を後にする。

何でここに彼女が?

何がなんだか・・・頭を掻いて彼女を見る。

「この度の事は騒ぎを大きくしてしまい、申し訳ありませんでした」

「ああ、いえ」

こちらも利用させて貰ってますとは言いにくい。

「私、御幸選手が好きなんです」

「・・・・・・・・は?」

「だからあの報道は嬉しかったんです。少しの間でも御幸選手の恋人として扱われて」

「・・・・・・」

「写真の方は恋人・・・なんですよね?」

「そうです」

そう答えると彼女の顔が悲しそうなものになった。

「自分の事を忘れられてると思いませんでした。彼女の事が本当に好きなんですね」

「ええ、結婚する予定なので」

「っ!!そうですか・・・」

「はい」

「付け入る隙も・・・無いんですよね」

「はい」

「わかりました。お時間を割いて頂き、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそわざわざありがとうございました。それじゃあ、失礼します」

俺は一礼をして部屋を出る。

すると広報の人が立っていた。

「お前・・・容赦ねえな」

「そうですか?」

「傷口に塩だけじゃなくてレモンも足されてるくらい酷えよ」

「期待持たせたくないですから。んじゃ、練習に戻ります」

これで煩わしさから少しは解放されるだろう。

その場を離れてロッカールームに向かった。



「今日、例のアナウンサーが来たよ」

「謝罪に?」

「うん・・・」

試合が終わって帰宅して、夜食を食べながら話題を振る。

相変わらず美味いな。

「何か言われたんでしょ」

「・・・何で?」

「やっぱり。告白?」

「まあ、そんなとこ。でも付け入る隙も無いって理解してくれたらしいよ」

「それ、直接言ったの?」

「うん」

「・・・・・・」

一瞬目を見開き、頬杖を付いて考えだす

と、思ったら突っ伏した。

「どした?」

「一也にフラれる時はギッタギッタに切り裂かれそうだなって、心が」

「え?何で?」

「一也って時々容赦ないもん」

「そこは否定しねえけど。心配する必要なくね?」

「まあ、そうなんだけど・・・」

「不安?」

「どうだろ・・・」

「マリッジブルーってヤツ?」

「それとも違うんだよね」

「ふーん。んじゃ、俺の情を疑わない様に愛を注ぐとしますか」

食器を片付けて恒例になりつつあるお姫様抱っこで彼女をベッドへ運ぶ。

「そういう事でもなくて!」

「じゃあ、身体じゃなくて言葉で表そうか?」

「それも恥ずかしい。一也恥ずかしげも無く言うから」

「恥ずかしいと思ってないしな」

う~っと唸ったがキスをしてきた。

彼女からって言うのは滅多に無い事。

「こっちで良いかな」

「喜んで」

キスをしながら彼女を組み敷いたのだった。


2017.04.18

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