シーズンが終わって秋に入った。
明日ついに結婚式を挙げる。
前日の今日は互いに家族と過ごそうと、実家に戻っていた。
「明日だな」「ああ、うん」
俺達親子の会話は長く続かない。
それが苦だと思った事も無いしな。
「早くに片親になって、お前にも苦労を掛けたな。幸せになりなさい」
「苦労なんて思ってねえよ。好きな野球やらせて貰ってたし。感謝してるよ」
夕飯を食べ終わって風呂に入って寝る。
朝起きて飯食ってまで今も昔も変わらない。
「んじゃ、後でな」
「ああ」
靴を履いて玄関を開ける。
またしばらく開ける事が無い実家の扉を閉めた。
「新婦様は既に準備に入られてます。新郎様はこちらに」
別室に通されて着替えをして髪を整えられる。
男の準備なんて、こんなもんだよな。
準備の合間に色んな人が挨拶に来てくれた。
「新婦様の準備が終わった様です。行かれますか?」
もちろん行くさ。他の男に見せる前に見ないとな。
案内されて別室へ向かう。
ドレス選びを一緒にしたから知ってはいるが。
「あ、新郎さんが来たわよ~」
彼女の友人や母親が既にいた。
お義母さんに裾を持ってもらい、が立ち上がる。
「一也。タキシード、似合うじゃない」
「はっはっはっ。純さんとかには七五三って言われたけどな」
「そんな事ないよ」
「じゃあ、。私達も準備してくるわね」
気をきかせてくれたのか、スタッフも家族の人も部屋を出て行く。
彼女の前に立って改めて見る。
「すっげー綺麗だな。似合ってる」
「それは世界一のお嫁さんになるんだもん」
「素敵な嫁を手にする俺は幸せ者だな~」
ドレスを踏まない様に近づき、彼女を抱きしめる。
いつもより更に細い腰。
「コルセット巻くから当日は食べられないんだよ」って言ってたっけ。
食い気より色気。
でも本当に綺麗だ。
「あ、キスはダメ。口紅取れちゃうし」
「じゃあ、ちょっとだけ」
誓いのキスの様な触れ合うだけのキスをして笑い合う。
家族で写真を撮り、再び控室で待機。
式が始まって彼女の到着を待つ。
彼女の腕がお義父さんから離れ、俺の腕に絡んでゆっくり歩く。
これからの人生の様に一歩一歩と。
神様に対しての誓いの言葉に誓いのキス。
指輪の交換の時に、お互い震えてて笑ってしまった。
そして再び二人で歩み、チャペルを後にする。
ライスシャワーを浴びながら、控室へと戻った。
お色直しを終え、二人で会場へ向かう。
当然ながら俺の方が人数が多く、男しかいない(笑)
席に着くとスタッフの人が「足元にバケツがあります。お酒はそちらへ」と言われた。
全部飲んでたら大変な事になるからな。
そして披露宴が始まる。
正直笑った。
そして先輩たちには初お披露目となるを紹介して回る。
余興の無い時は、俺の招待客はの友人等に声を掛けに行ってるようだ。
「ねえ、一也。皆が祝福してくれて嬉しいね」
「そうだな」
と顔を見合わせて笑う。
「なーに幸せそうに見つめ合ってんだよ、ヒャハハ!二次会行くぞ二次会!」
結局、三次会まで付き合わされることとなった。
式の翌日は二日酔いでダウン。
ハネムーンはお互いの長期休みの年末年始に行く事にしている。
そして月曜になってはいつも通り出勤していった。
彼女を見送って自分の準備をし、青道へ向かった。
「御幸君、こっち」
礼ちゃんに案内された舞台袖。
有難い校長先生の話が終わるのを待つ。
「それでは最後にご報告です。先生、こちらに」
「はい」
校長先生に呼ばれてが壇上に上がる。
そして校長の隣に並んだ。
「先日、先生がご結婚されました」
すると生徒達から声が上がる。
「お相手は・・・」
「俺です」
大き目の声を出しながら彼女の隣に立つ。
すると色めき立った声が上がった。
「一也・・・何で・・・」
「ちょっとね」
「彼はプロ野球○×チームの1軍選手で我が校の卒業生でもあります。では、御幸君」
校長先生からマイクを受け取り、口元に当てる。
「野球部OBの御幸一也です。先日先生と結婚しました。つー訳で、狙ってた男子生徒の諸君、ごめんな。勉強に専念しろよー」
はっはっはっと笑いながらマイクをにマイクを渡す。
「えーと、そういう事で、これから御幸になりますのでよろしくお願いします」
二人で頭を下げると生徒達から「おめでとう!」と拍手が。
マイクを校長先生に渡してと舞台袖に下がる。
「もう!信じられない!」
「はっはっはっ。絶対を狙ってる生徒いるだろうし、牽制しておきたかったんだよ」
「苗字が変わるんだから分かるじゃない」
「生徒に対してだけじゃねえよ」
「どういうこと?」
「終わる頃に迎えにくるよ」
の頭をポンポンと叩いてその場を後にした。
きっと彼女はこの後の授業で、生徒たちに冷やかされているだろう。
2017/4/20