きっとそういうこと

04話

卒業式当日、家を出ると御幸がいた。

「最後くらい一緒に登校しようぜ」

私は彼に駆け寄り、手を繋いだ。

繋いだ手は彼のポケットに収まるのが最近の流れ。

二人で他愛も無い話をしながら登校した。

学校に着くと、すぐに野球部の後輩が駆け寄って来た。

後輩が何かを話すと御幸が苦笑いで応える。

何だか微笑ましくて笑いが漏れる。

「また後で」と笑って彼に手を振って傍を離れた。

校舎に入り、靴を履き替える。

クラスの入り口で胸元に小さな花のブーケが付けられ「おめでとうございます」と言われた。

お礼を言って教室に入れば、既に泣いている子までいた。

ー!写真撮ろう!!」

カメラを持って近寄ってくるクラスメートと会話をして撮影。

あちこちで撮影会が始まった。

ー!」

出入り口から御幸の声で名前を呼ばれる。

横に倉持や白洲がカメラを持って立っていた。

彼の方へ行くと、やはり写真を撮ろうと言う事だった。

「二人のヤツ撮ってよ」と御幸が倉持にスマホを渡したので、私も便乗する。

すると周りからも人が集まり、沢山写真を撮った。

先生が来て式の準備が始まる。

廊下に並んで体育館へ移動。

そこには来賓やPTAや保護者が沢山いる。

私より先に入場している御幸の姿が見えた。

式は滞りなく進んでゆく。

話を聞いていると、この学校に来るのは今日が最後なのだと実感させられる。

来月からは大学生となり、本格的に大人の仲間入りとなる。

そして御幸は一足先に社会人となり、今の様に会えない日が続くのだろう。

様々な感情が溢れてきては零れて行く。

「御幸一也」「はい」

彼が壇上に上がり、卒業証書を受け取る。

背筋をピンと伸ばしお辞儀をする。

証書を横に持ち、壇上を降りて行く。

その時に視線が合った様な気がした。

もうすぐ自分の番になるので席を立ちあがる。

来賓に挨拶をして階段下で待機。

前の人が呼ばれて壇上の端に立つ。

なんとなく御幸の方を見れば、やはり視線が合う。

そして軽く微笑まれた。

」「はい」

檀の中央へ移動し、校長先生に礼をする。

「卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

証書を受け取り礼をして、持ち替えて歩き出す。

階段を下りて挨拶をして席に向かって歩く。

たかが紙切れ一枚と言うのに重いものだ。

残りの生徒の証書が渡し終え、在校生からの言葉。

仰げばとおとしを歌って拍手の中、体育館を出て教室へ向かう。

程なくして先生が最後のHRの為に教師に来た。

特別良い先生でも無いが悪い先生でも無かった。

けれどきっと最後の言葉は忘れないんだろうなと思う。

「それじゃあ元気で!新しい未来に歩き出してください」

最後の号令。

ここで話す最後の友人との会話。

するとスマホがメッセージを受信する。

『野球部に顔を出すからどこかで待ってて』

それは御幸からのものだった。

適当に時間を潰し、中庭に行こうと下駄箱に向かう。

ついでに御幸にもそう伝えようとメッセージを送る。

、ちょっといい?」

それは去年のクラスメートの男子。

「御幸と付き合ってるのは知ってるけど、ずっと好きだったんだ」

「・・・・・・ありがとう。気持ちは嬉しいけど応えられない」

「・・・・・・だよな。でも、伝えられてスッキリしたよ。どっかで会ったらお茶でもしながら彼女の話してやるからな」

「わかった」

彼は私に背中を向けて歩き出す。

・・・・・・びっくりした。

「断るのも結構大変だろ?」

振り向くと御幸が昇降口に寄りかかって腕組みしていた。

「ああ、うん。御幸も毎回こうなんだね」

「今はがいるから楽だけどな」

「そういうもの?」

「そういうもの」

そして二人で手を繋いで校舎を出る。

校門の所で学校を振り返った。

「もうここに来ても皆に会えないんだね」

「そうだな。でも簡単に忘れるもんでもねえし」

「・・・・・・そうだね」

「んじゃ、デートにでも行きますか」

「賛成!」

二人で手を繋いで歩き出す。

その先はデートの場所であるのだが、この先の未来にも繋がっている事でもある。

私達は笑いながら一歩一歩と踏み出していった。



2017/2/20

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