卒業式当日、家を出ると御幸がいた。
「最後くらい一緒に登校しようぜ」
私は彼に駆け寄り、手を繋いだ。
繋いだ手は彼のポケットに収まるのが最近の流れ。
二人で他愛も無い話をしながら登校した。
学校に着くと、すぐに野球部の後輩が駆け寄って来た。
後輩が何かを話すと御幸が苦笑いで応える。
何だか微笑ましくて笑いが漏れる。
「また後で」と笑って彼に手を振って傍を離れた。
校舎に入り、靴を履き替える。
クラスの入り口で胸元に小さな花のブーケが付けられ「おめでとうございます」と言われた。
お礼を言って教室に入れば、既に泣いている子までいた。
「ー!写真撮ろう!!」
カメラを持って近寄ってくるクラスメートと会話をして撮影。
あちこちで撮影会が始まった。
「ー!」
出入り口から御幸の声で名前を呼ばれる。
横に倉持や白洲がカメラを持って立っていた。
彼の方へ行くと、やはり写真を撮ろうと言う事だった。
「二人のヤツ撮ってよ」と御幸が倉持にスマホを渡したので、私も便乗する。
すると周りからも人が集まり、沢山写真を撮った。
先生が来て式の準備が始まる。
廊下に並んで体育館へ移動。
そこには来賓やPTAや保護者が沢山いる。
私より先に入場している御幸の姿が見えた。
式は滞りなく進んでゆく。
話を聞いていると、この学校に来るのは今日が最後なのだと実感させられる。
来月からは大学生となり、本格的に大人の仲間入りとなる。
そして御幸は一足先に社会人となり、今の様に会えない日が続くのだろう。
様々な感情が溢れてきては零れて行く。
「御幸一也」「はい」
彼が壇上に上がり、卒業証書を受け取る。
背筋をピンと伸ばしお辞儀をする。
証書を横に持ち、壇上を降りて行く。
その時に視線が合った様な気がした。
もうすぐ自分の番になるので席を立ちあがる。
来賓に挨拶をして階段下で待機。
前の人が呼ばれて壇上の端に立つ。
なんとなく御幸の方を見れば、やはり視線が合う。
そして軽く微笑まれた。
「」「はい」
檀の中央へ移動し、校長先生に礼をする。
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
証書を受け取り礼をして、持ち替えて歩き出す。
階段を下りて挨拶をして席に向かって歩く。
たかが紙切れ一枚と言うのに重いものだ。
残りの生徒の証書が渡し終え、在校生からの言葉。
仰げばとおとしを歌って拍手の中、体育館を出て教室へ向かう。
程なくして先生が最後のHRの為に教師に来た。
特別良い先生でも無いが悪い先生でも無かった。
けれどきっと最後の言葉は忘れないんだろうなと思う。
「それじゃあ元気で!新しい未来に歩き出してください」
最後の号令。
ここで話す最後の友人との会話。
するとスマホがメッセージを受信する。
『野球部に顔を出すからどこかで待ってて』
それは御幸からのものだった。
適当に時間を潰し、中庭に行こうと下駄箱に向かう。
ついでに御幸にもそう伝えようとメッセージを送る。
「、ちょっといい?」
それは去年のクラスメートの男子。
「御幸と付き合ってるのは知ってるけど、ずっと好きだったんだ」
「・・・・・・ありがとう。気持ちは嬉しいけど応えられない」
「・・・・・・だよな。でも、伝えられてスッキリしたよ。どっかで会ったらお茶でもしながら彼女の話してやるからな」
「わかった」
彼は私に背中を向けて歩き出す。
・・・・・・びっくりした。
「断るのも結構大変だろ?」
振り向くと御幸が昇降口に寄りかかって腕組みしていた。
「ああ、うん。御幸も毎回こうなんだね」
「今はがいるから楽だけどな」
「そういうもの?」
「そういうもの」
そして二人で手を繋いで校舎を出る。
校門の所で学校を振り返った。
「もうここに来ても皆に会えないんだね」
「そうだな。でも簡単に忘れるもんでもねえし」
「・・・・・・そうだね」
「んじゃ、デートにでも行きますか」
「賛成!」
二人で手を繋いで歩き出す。
その先はデートの場所であるのだが、この先の未来にも繋がっている事でもある。
私達は笑いながら一歩一歩と踏み出していった。
2017/2/20