きっとそういうこと

06話

6月に入ると生活リズムが出来て来た。

講義にバイトに勉強する事は山ほどある。

一也も2軍での試合回数が増えたらしく、自主練にも力が入っている様だ。

ゆっくり会える日は数少ないが、忙しさが忘れさせてくれるのかもしれない。

けれど時間が出来ればバイト先に来てくれたりと、僅かな時間でも割いてくれる。

「これ、見たか?」

結城先輩は会えば話をする様になった。

今もカフェで時間を潰している所に来て、雑誌を差し出してきた。

表紙からすると野球雑誌。

私は受け取ってもくじを見る。

すると『注目新人キャッチャー特集』の文字が。

ページを捲って行くと、青道高校のユニフォームとは違う一也が映っていた。

「あ、この人・・・」

「ん?原田か。知り合いか?」

「いえ。青道の試合に応援に行ったんですけど、一也の名前を叫んだ人の首根っこ掴んで連れて行った人なんです」

「ああ、成宮か」

「そこまでは。ただ、ちょっとインパクトあったんで」

「確かに」

「結城」

話をしていると先輩が来た。

けれど座る事は無く、用件だけ話して行ってしまった。

ん~なんか嫌われる事したかな?

先輩は綺麗な人で、ちょっとお近づきになりたかったのに。

「どうした?」

「あ、いえ。何でもないですよ」

再び雑誌に目をやると、違う選手の写真がメインだけど後ろの方に一也が映っていた。

綺麗な女性がマイクを向けている。

その瞬間、私の胸にチリっとした痛みが走った。


「おーい」

声を掛けられてはっとする。

一也の顔がドアップで更に驚いた。

「ビビってやんの」

「ちょっと驚いただけだし」

「・・・・・・ま、いっか。着いたぜ」

久し振りのデートに連れ出されたのは原宿だった。

裏通りに入った知る人ぞ知る様な店。

しかも地下にある。

「先輩に教えて貰ったんだよ」

お店に入るとヨーロッパを思わせる可愛らしいお店。

店内に足を踏み入れると甘い香りが漂ってくる。

「ガレットが有名なんだってさ」

あれもこれも美味しそうで、二人でシェアする事に。

「けど、一也はこれじゃあ足りないんじゃない?」

「んーだから夜はガッツリ系行こうぜ」

「分かった」

出て来たガレットにクレープに、全てが美味しい。

店内にはお菓子も売られていて、二人で見て回った。

幾つかの菓子を手にし、会計をする。

店を出て、街を歩く。

するとジュエリーショップに一也が「入ろう」と言った。

店内を見て回り「このネックレスどう?」と聞かれたので「綺麗・・・」と答えた。

すると店員を呼んで、それを買うと言う。

「え?」

「なんつーかさ、まあ給料的な物も貰ってるし?俺が買ったもんを付けて欲しいし?俺の我儘だよ」

そしてラッピングを終えた店員が戻ってきて、会計を済ませる。

商品を受け取って店を出る時「指輪はもう少し先な」と言われて真っ赤になってしまった。

その一言だけで、二人の先々を考えてくれてると分かったから。

駅のスーパーで買い物をして、一也の実家に向かう。

相変わらずおじさんは仕事をしているのか、工場にいた。

2階に上がって買って来た食材を冷蔵庫にいれる。

夕飯にはまだ早い時間だ。

一也の部屋に行くと、先ほどのジュエリーショップの包みを取り出した。

ラッピングを開け、ネックレスを取り出す。

「似合ってる」

「・・・・・・ありがとう。大事にする」

すると「あー・・・」と言いながら抱き着いて来た。

「正直、哲さんに妬いてる」

「え?」

「俺も大学行けば良かったかなー」

初めて聞く彼のヤキモチ。

私も彼に抱き着いた。

「私も・・・妬いたよ」

すると肩に手が置かれ、勢いよく距離が出来た。

「え?なんで??」

「結城先輩が見せてくれた雑誌・・・綺麗な人がインタビューしてたから」

「インタビュー?された覚えはあるけど・・・何人もいたしな」

「うー・・・やっぱりそうなんだ」

「はっはっは。俺ばっかが妬いてるかと思ったけど違ったんだな」

「うぅ~~~」

「はいはい。とりあえず、愛を確かめあおうぜ?」

体が優しく後ろに倒される。

手を広げて彼の体を抱きしめた。



2017/3/1

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