6月に入ると生活リズムが出来て来た。
講義にバイトに勉強する事は山ほどある。
一也も2軍での試合回数が増えたらしく、自主練にも力が入っている様だ。
ゆっくり会える日は数少ないが、忙しさが忘れさせてくれるのかもしれない。
けれど時間が出来ればバイト先に来てくれたりと、僅かな時間でも割いてくれる。
「これ、見たか?」
結城先輩は会えば話をする様になった。
今もカフェで時間を潰している所に来て、雑誌を差し出してきた。
表紙からすると野球雑誌。
私は受け取ってもくじを見る。
すると『注目新人キャッチャー特集』の文字が。
ページを捲って行くと、青道高校のユニフォームとは違う一也が映っていた。
「あ、この人・・・」
「ん?原田か。知り合いか?」
「いえ。青道の試合に応援に行ったんですけど、一也の名前を叫んだ人の首根っこ掴んで連れて行った人なんです」
「ああ、成宮か」
「そこまでは。ただ、ちょっとインパクトあったんで」
「確かに」
「結城」
話をしていると先輩が来た。
けれど座る事は無く、用件だけ話して行ってしまった。
ん~なんか嫌われる事したかな?
先輩は綺麗な人で、ちょっとお近づきになりたかったのに。
「どうした?」
「あ、いえ。何でもないですよ」
再び雑誌に目をやると、違う選手の写真がメインだけど後ろの方に一也が映っていた。
綺麗な女性がマイクを向けている。
その瞬間、私の胸にチリっとした痛みが走った。
「おーい」
声を掛けられてはっとする。
一也の顔がドアップで更に驚いた。
「ビビってやんの」
「ちょっと驚いただけだし」
「・・・・・・ま、いっか。着いたぜ」
久し振りのデートに連れ出されたのは原宿だった。
裏通りに入った知る人ぞ知る様な店。
しかも地下にある。
「先輩に教えて貰ったんだよ」
お店に入るとヨーロッパを思わせる可愛らしいお店。
店内に足を踏み入れると甘い香りが漂ってくる。
「ガレットが有名なんだってさ」
あれもこれも美味しそうで、二人でシェアする事に。
「けど、一也はこれじゃあ足りないんじゃない?」
「んーだから夜はガッツリ系行こうぜ」
「分かった」
出て来たガレットにクレープに、全てが美味しい。
店内にはお菓子も売られていて、二人で見て回った。
幾つかの菓子を手にし、会計をする。
店を出て、街を歩く。
するとジュエリーショップに一也が「入ろう」と言った。
店内を見て回り「このネックレスどう?」と聞かれたので「綺麗・・・」と答えた。
すると店員を呼んで、それを買うと言う。
「え?」
「なんつーかさ、まあ給料的な物も貰ってるし?俺が買ったもんを付けて欲しいし?俺の我儘だよ」
そしてラッピングを終えた店員が戻ってきて、会計を済ませる。
商品を受け取って店を出る時「指輪はもう少し先な」と言われて真っ赤になってしまった。
その一言だけで、二人の先々を考えてくれてると分かったから。
駅のスーパーで買い物をして、一也の実家に向かう。
相変わらずおじさんは仕事をしているのか、工場にいた。
2階に上がって買って来た食材を冷蔵庫にいれる。
夕飯にはまだ早い時間だ。
一也の部屋に行くと、先ほどのジュエリーショップの包みを取り出した。
ラッピングを開け、ネックレスを取り出す。
「似合ってる」
「・・・・・・ありがとう。大事にする」
すると「あー・・・」と言いながら抱き着いて来た。
「正直、哲さんに妬いてる」
「え?」
「俺も大学行けば良かったかなー」
初めて聞く彼のヤキモチ。
私も彼に抱き着いた。
「私も・・・妬いたよ」
すると肩に手が置かれ、勢いよく距離が出来た。
「え?なんで??」
「結城先輩が見せてくれた雑誌・・・綺麗な人がインタビューしてたから」
「インタビュー?された覚えはあるけど・・・何人もいたしな」
「うー・・・やっぱりそうなんだ」
「はっはっは。俺ばっかが妬いてるかと思ったけど違ったんだな」
「うぅ~~~」
「はいはい。とりあえず、愛を確かめあおうぜ?」
体が優しく後ろに倒される。
手を広げて彼の体を抱きしめた。
2017/3/1