きっとそういうこと

16話

「俺、先生が本当に好きなんです」

放課後の教室、学生の子だったらときめいちゃうシチュエーションでの告白。

ときめかないのは私が大人になったからなのだろうか。



1学期最後の期末テストの終わりを告げるチャイムが鳴ると、学生がざわめき立つ。

回答用紙を回収し、プリントの束を持って教員室に戻る。

他の教師は既に添削作業に追われている。

一旦プリントを置いて、自分の受け持ちの教室に向かった。

伝達事項を伝え、日直の名前を呼ぶ。

そして当番が号令を掛け、挨拶をする。

鞄を持って早々に退室する者、部活に向かう者とバラバラになって行く。

高校二年と言うのは、一番自由がある時かもしれない。

かけがえのない時間を有効に過ごしてねと願いながら見送った。

職員室に戻って昼食をとる。

職員にも日直があり、今日は私が担当だ。

見回りの為に校舎内を歩き回る。

三年の教室へ行くと、進路相談などで生徒が何人かいた。

「あら、佐々木くんも進路相談?」

「あ、先生。そう・・・です」

「体調崩さないようにしてね」

窓の戸締りをしようと窓際に向かう。

その時、腕を掴まれた。

驚いて振り向くと、眉をぎゅっと寄せた佐々木君がいた。

「どうしたの?」

「好きです」

「え?」

「俺、先生が本当に好きなんです」

うわっ・・・漫画の様な出来事が自分にも起きてしまった。

けれど応える訳にはいかない。

私は少し微笑んで彼を見た。

「気持ちは嬉しいけど、ごめんね」

「やっぱり・・・ダメ、ですよね」

「生徒と教師だからって理由じゃないけどね」

「彼氏、いるんですね」

「そこはプライベートなのでお答えできません」

「ずるいです」

「そうかもしれない。でも、絶対佐々木君に似合う女性がいると思うよ」

「そんなの知りませんよ。俺、諦めませんから」

「え?」

「それじゃあ、さようなら先生」

彼は鞄を持って出ていってしまった。

私は近くにあった机に手をついて長い溜息を吐いた。

「びっっっっっっくりした~~~」

まさか、自分がドラマの様な展開が起こるとは思わなかった。

仕事を始める前、御幸に言われたのを思い出した。

「正直言っては男子学生の恋愛対象者だから」

「は?まさか・・・」

「年頃の男なめんなよ?」

「舐めてないけど」

「まずこれから揃えるスーツはパンツ限定な!男子生徒の餌食になるし。

ついでに胸元開いてるシャツ厳禁、色の濃いブラ付けるなら濃い色のシャツ着ろよ」

「え?」

「そういうのでさえ、興奮材料になるんだからな」

「・・・・・・」

「なに?」

「経験者は語る」

「そうだよ!ヤリたい盛りのオトコなんて誰でも一緒だからな!」

「近くに高島先生いたしね」

「礼ちゃん?野球以外の事はどんくさいからな」

「胸大きいし、足綺麗だし・・・」

「でも今じゃと礼ちゃん変わらないんじゃね?」

じっと一也の視線が私の胸元に来た。

「えっち!!」

「まあ、サイズはいいとして。礼ちゃんは憧れても恋愛対象にはならねえんだよ」

「え?何で?」

「特に野球絡んでるとシビアでキツイし。そういう意味じゃ、柔らかい雰囲気のはヤバイんだって」







さすが同性。

歩んで来た道だ。

だからと言って避ける訳にもいかないしな。

後半年も経たないうちに『御幸』になるんだけど。

いや、正確に言えば2週間以内にだ。

パスポートを取得するのに先に苗字を変えてしまおうと。

なので一也のオールスター戦が終わった時に入籍するのだ。

「よしっ!」

顔を上げて背中を伸ばす。

過ぎた事を嘆いても仕方ない。

教室の電気を消して、職員室へと向かった。


2017/4/19

  • prev