「俺、先生が本当に好きなんです」
放課後の教室、学生の子だったらときめいちゃうシチュエーションでの告白。
ときめかないのは私が大人になったからなのだろうか。
1学期最後の期末テストの終わりを告げるチャイムが鳴ると、学生がざわめき立つ。
回答用紙を回収し、プリントの束を持って教員室に戻る。
他の教師は既に添削作業に追われている。
一旦プリントを置いて、自分の受け持ちの教室に向かった。
伝達事項を伝え、日直の名前を呼ぶ。
そして当番が号令を掛け、挨拶をする。
鞄を持って早々に退室する者、部活に向かう者とバラバラになって行く。
高校二年と言うのは、一番自由がある時かもしれない。
かけがえのない時間を有効に過ごしてねと願いながら見送った。
職員室に戻って昼食をとる。
職員にも日直があり、今日は私が担当だ。
見回りの為に校舎内を歩き回る。
三年の教室へ行くと、進路相談などで生徒が何人かいた。
「あら、佐々木くんも進路相談?」
「あ、先生。そう・・・です」
「体調崩さないようにしてね」
窓の戸締りをしようと窓際に向かう。
その時、腕を掴まれた。
驚いて振り向くと、眉をぎゅっと寄せた佐々木君がいた。
「どうしたの?」
「好きです」
「え?」
「俺、先生が本当に好きなんです」
うわっ・・・漫画の様な出来事が自分にも起きてしまった。
けれど応える訳にはいかない。
私は少し微笑んで彼を見た。
「気持ちは嬉しいけど、ごめんね」
「やっぱり・・・ダメ、ですよね」
「生徒と教師だからって理由じゃないけどね」
「彼氏、いるんですね」
「そこはプライベートなのでお答えできません」
「ずるいです」
「そうかもしれない。でも、絶対佐々木君に似合う女性がいると思うよ」
「そんなの知りませんよ。俺、諦めませんから」
「え?」
「それじゃあ、さようなら先生」
彼は鞄を持って出ていってしまった。
私は近くにあった机に手をついて長い溜息を吐いた。
「びっっっっっっくりした~~~」
まさか、自分がドラマの様な展開が起こるとは思わなかった。
仕事を始める前、御幸に言われたのを思い出した。
「正直言っては男子学生の恋愛対象者だから」
「は?まさか・・・」
「年頃の男なめんなよ?」
「舐めてないけど」
「まずこれから揃えるスーツはパンツ限定な!男子生徒の餌食になるし。
ついでに胸元開いてるシャツ厳禁、色の濃いブラ付けるなら濃い色のシャツ着ろよ」
「え?」
「そういうのでさえ、興奮材料になるんだからな」
「・・・・・・」
「なに?」
「経験者は語る」
「そうだよ!ヤリたい盛りのオトコなんて誰でも一緒だからな!」
「近くに高島先生いたしね」
「礼ちゃん?野球以外の事はどんくさいからな」
「胸大きいし、足綺麗だし・・・」
「でも今じゃと礼ちゃん変わらないんじゃね?」
じっと一也の視線が私の胸元に来た。
「えっち!!」
「まあ、サイズはいいとして。礼ちゃんは憧れても恋愛対象にはならねえんだよ」
「え?何で?」
「特に野球絡んでるとシビアでキツイし。そういう意味じゃ、柔らかい雰囲気のはヤバイんだって」
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さすが同性。
歩んで来た道だ。
だからと言って避ける訳にもいかないしな。
後半年も経たないうちに『御幸』になるんだけど。
いや、正確に言えば2週間以内にだ。
パスポートを取得するのに先に苗字を変えてしまおうと。
なので一也のオールスター戦が終わった時に入籍するのだ。
「よしっ!」
顔を上げて背中を伸ばす。
過ぎた事を嘆いても仕方ない。
教室の電気を消して、職員室へと向かった。
2017/4/19