その後
大学の4年間、みっちりバスケをした。
繋心さんとは年に2回の里帰りと、彼が東京に来た時に会うくらいだった。
それでも毎日の様にメッセージのやり取りをし、時々電話もしていた。
会う前日には「明日別れ話をされるんじゃないか」と不安に襲われる事もしばしば。
けれど実際に会えば彼の包容力で落ち着く事が出来た。
そんな離れ離れの日々も今日で終わる。
目の前に滑り込んできた新幹線に乗り、宮城に戻るのだから。
購入したチケットは指定席では無く自由席。
昨日は友達が送別会をしてくれたので早く起きられれば1本早い新幹線に乗ろうと思ったから。
体は疲れていても目が覚めたので、繋心さんに伝 えた時刻の前の新幹線に乗り込む。
運よく座席に座れ、荷物を棚に乗せる。
そして車体の揺れに合わせて襲ってくる眠気に、私は目を閉じた。
目を覚ました時は、もうすぐ仙台と言う時だった。
私は急いで荷物を降ろして移動する。
改札を抜け、久しぶりの仙台市内を眺めようと思ったけど繋心さんを驚かせる為、近くの店に入った。
アイスラテを頼み、窓際の席に座る。
ここならば改札も見えるし、繋心さんが来たらすぐに出て行けるだろう。
カップを取り口をつければ、冷たい液体が喉を通りすぎてゆく。
カップの中身が無くなる頃、繋心さんが現れた。
私は荷物を持ち、トレイを手にする。
下膳して店を出ると、綺麗な女の人が繋心さんと話していた。
スラっとしたスタイルで、タイトスカートにヒール。
指先の綺麗なネイルが目に焼 き付いた。
私とは圧倒的に違う『女』が武器の女性だ。
立ちすくんで二人を見ていたら、繋心さんの視線が私を捉えた。
そして私の方へと駆け寄ってくる。
「もう着いてたのか?」
「あ、はい。1本早いの乗れたので」
「なんだ、連絡してくればいいのに」
「ちょっと繋心!」
「ん?ああ、まだいたのか」
「まだとは失礼ね。この子がそう?」
「あ、ああ・・・まあな」
「初めまして。私は。繋心とは腐れ縁の仲なの」
「初めまして、です」
「繋心にしては可愛い子捕まえたじゃない。たまには連絡してよね」
さんは手を振って改札に消えて行った。
繋心さんは私の荷物を 取り、手を繋いで「行くか」と歩き出した。
近くのパーキングに停められた車に乗り込む。
助手席に座ると繋心さんが料金を払い運転席に座る。
ほどなくして揺れ出した車。
「にしても、何で連絡しなかったんだ?」
「繋心さんを・・・驚かせようと思って」
当たり障りのない会話が続くが、私の心はモヤモヤとしている。
せっかく会えたのに・・・
「何かあったのか?会ってから様子が変だけど」
「え?あ・・・何でも」
「嘘だな」
すると車がどこかの公園付近で停まった。
ハンドルに腕を乗せ、寄りかかる様にしながら彼が私を見る。
顔は半分腕で隠れているが、目から真剣なのが伝わってくる。
「さっきの人・・・綺麗な方でしたね」
「ん??化粧で誤魔化してんだろうけど、見た目と中身は全然違うぜ」
「お付き合い・・・してました?」
繋心さんは目を開いて驚いていた。
そして上半身をシートに戻し、窓を全部開けた。
ポケットから取り出した煙草を1本口に咥え、火を点ける。
腕を窓の外に出し、紫煙を外に吐き出す。
「まあ、小さい街だし他から聞くより良いだろ」
「アイツとは小学校より前からの知り合いっつーか幼馴染でな。
高校1年の時だったかな?
まあ、話の流れで付き合う事になったんだよ。
けど俺はバレーに夢中だったし?
長く続かなかった。その程度だよ」
ドアを開け地面にタバコを擦りつけてドアを閉め、吸殻を車内の灰皿に入れる。
「ヤキモチか?」
「う~・・・はい」
「と付き合う前まで誰とも付き合った事が無いって言ったら嘘になる。
これから実業団チームに入ればファンクラブとかもあるしな。
それこそが高校生の頃、澤村にさえヤキモチ妬いたしな」
「え?」
「きっとこんな擦れ違いはこれからも出てくる。
けど、話して行くうちに未来が積み重なって過去になり、
俺達の過去が沢山増えるだろ。というか増やしていこうぜ」
「はい」
「と言うワケで・・・よっと」
ポケットから何かを取り出し、私の方に身を乗り出してくる。
チャリっと言う音と共に首筋にネックレスが付けられる。
ペンダントトップにはリングが。
それを手にしてみると「これ、ダイヤモンド?」と彼を見た。
「まあ、安月給だから勘弁してくれ。ネックレスにしとけば試合中でも平気だろ?」
「これって・・・」
「今すぐじゃねえけどさ、結婚してくれ」
「はい!」
真っ赤になってる繋心さんに私は抱きついた。
慌ててたけど背中に回った手が温かくて涙が出て来た。
2017/3/8