03.大人はずるいですね
平日の夜。
嶋田に呼び出され居酒屋まで歩く。
まあ、の事を聞きたいのだろう事は予想がつく。
「らっしゃ~い」
お運びのおばちゃんにビールを注文し、奥の座敷に向かう。
既に二人はいて、酒盛りが始まっていた。
上着を脱いで煙草をテーブルに置き座布団に腰を下ろすと、ビールが運ばれてくる。
グラスを合わせて喉を潤す。
「うめぇー」
「女子高生はなんでこんなオッサンがいいのかね~」
「繋心の七不思議の1つだな。というか、どうなったんだ?」
「まあ、付き合う事にした」
「「へぇ~~~」」
「なんだよ」
「どうなんだよ、年下のカノジョってやつは」
「どうって・・・」
「毎日電話したりしてんのか?」
「いや、してない」
「メールは?」
「たまに」
「デートは?」
「してない。そもそも時間が合わねえんだよ」
朝から畑仕事で店の準備に店番、夕方から部活に行き、夜は店じまいだったりバレーしに行ったり。
自身も部活と学校で夜に連れまわせない。
学校ですれ違っても挨拶程度だしな。
「付き合ってるのか微妙だな」
言われるまでもない。
自分が一番そう思ってるんだから。
かと言って自分のバレーに関する全てをやめる事も出来ない。
「でも、この先どうするんだ?」
「なるようになるだろ」
煙草を取り出し火をつけ、立ち上がる白い煙を視線で追いかけた。
学生は夏休みに突入したが、社会人はそうはいかない。
自営業の良いところは、融通がきくことだ。
学生が夏休みだと、練習が終わるのが早い。
まあ、結局仕事が夜になるから彼女と会う時間があるわけじゃないんだけどな。
けれど母親が「あんたも休みなさい」と時間をくれた。
夕方から会えないかとに連絡を入れて、会う時間を作り出した。
初デートが軽トラってのも色気が無いから友達に車を借りて彼女を迎えに行く。
助手席に乗り込んだのを確認し、車を走らせた。
「うわ~・・・」
車を停めたのは山の中腹にある場所。
仙台の街並みが見下ろせるちょっとしたデートスポットだ。
よっぽど気に行ったのか、景色を見たまま動かない。
こんな所は子供っぽいなと思うけど、それがまた可愛い。
周りにも人はいたが、何だか彼女を見られるのもイヤだ。
「そんなに気にいったのか?」
彼女の後ろに立ち、両手を彼女を囲う様にしてガードレールに手をつく。
一瞬体が強張ったが、顔を動かし俺の方を見上げた。
「なんだか・・・ずるいです」
「なにがだ?」
「烏養さんは私の事を喜ばせてばかりいます」
「は?どちらかと言えば我慢させてばかりだと思うけど」
真昼間に手を繋いで歩いたりも出来なければ会う時間もない。
毎日メールや電話をするかと言えば違うし。
「そんな事無いですよ。大人の余裕というか、経験の差は大きいのかな・・・」
正直、彼女の腕をつかんでボンネットに押し付けて自分のモノにしたい衝動はある。
会う度に好きになってるのは俺の方じゃね?
「俺からすりゃ、の方がずるいけどな」
大の大人を翻弄するんだから。
「もうすぐ試合だろ?頑張れよ」
「はい!」
顔を下に向け、晒されている首筋にキスをした。
真っ赤になって恥ずかしがる顔が、たまらなく愛おしい。
2016/09/25