年上に体当たりの恋5題

02.その余裕を崩したい


店番をしていた頃、部活帰りっぽい女の子が良く買い物に来た。

アイスだったりお菓子だったりパンだったり。

ショートカットで大きなシューズケースなのを見るとバスケットだろう。

大人しそうな、綺麗な顔立ちをした女の子。

いつもの様に「帰ってちゃんと飯食えよー」と言えば「はい」と笑顔が返って来た。

だからと言って好きかと聞かれれば、そうでもない様な・・・

男が普通に擦れ違う女に目が行くのと同じだ。

コーチを始めてから夕方から店にいなくなったので、会う事も無かった。

けれど部活が終わって帰ろうとしたら彼女と遭遇した。

いつもの様に話して、いつもの様に別れた。

その女の子に告白されるなんて、思いもしなかった。

「繋心?お前ピッチ早すぎじゃね?」

「なんか様子が変なんだよな」

「お前らさ・・・年下の彼女ってどう思う?」

「最高なんじゃねえの?」

「いくつ下かにもよるだろ」

「んーーー女子高生は」

「犯罪臭いけど良いんじゃね?」

「犯罪だろ」

「だよな~」

「なんだよ、女子高生に惚れたのか?」

「やるな、繋心」

「惚れたっつーか・・・・・・告られた」

「「えぇーーーーー!?」」

「驚くよな~普通」

「で?OKしたのか?」

「繋心がね・・・物好きな子」

「可愛い?綺麗?繋心に告るくらいだから期待出来ないか」

「・・・・・・明日試合があるらしいんだよ」

「彼女の?」

「応援してくれって?」

「いや、彼女とは話してない」

「断ったのか?」

「いや、保留」

「明日休みだし、みんなで応援いくか!」

勝手に話しを進める友人たちを横目に、俺は煙草に火をつけた。




会場に到着し、俺達は保護者応援席では無い場所に腰を下ろす。

彼女に気付かれたくないからだ。

「どの子?」

「7番」

そして二人がコートを覗き込み、ガバっと俺を見た。

「「かわいい!!!!!」」

「あの子がお前を!?」

友人の言葉は無視してを見る。

シュート練習をしているが、中々決まらない。

ため息をつきながらクルっと後ろを向く。

ワンドリブルしてターン、そしてシュート。

ボールは静かにリングに吸い込まれた。

ホイッスルが鳴り、選手がベンチの監督の元へ。

今日の試合内容の確認などしているのだろう。

そして審判のホイッスルが鳴り、試合が始まった。

センタージャンプらかポイントガードにボールが渡る。

そこからパス回しの後、ボールはの手の中へ。

目の前には彼女より背の高いディフェンス。

体が左に傾いたと思ったらターンからドリブルしてゴールへ切り込む。

ふわっと放たれたボールは静かにリングに吸い込まれた。

「ナイッシュー!」

周りとハイタッチしながらディフェンスに戻る。

あの大人しいそうなから想像出来ないくらいの熱いプレイの数々。

ハーフタイムになり、俺はギャラリーを降りた。

喫煙所で煙草をくゆらす。

観に来て良かったのか悪かったのか複雑な心境だ。

正直、ああいう目を見るとな・・・

灰皿に吸殻を放り込み、ギャラリーに戻る。

「お?腹くくったか」

「お前好みだよな、彼女」

「だな」

そして試合が終わるまで俺たちは黙って見ていた。




日曜に練習試合があり、月曜の練習が休みになった。

俺は彼女が店に寄ってた時間に合わせ、店の前のベンチに座る。

予想通り、彼女が歩いてきた。

「よっ。お疲れさん」

「あ、こんばんは」

「今、ちょっと良いか?」

「あ、はい」

彼女を誘導する様に前を歩き、近くの公園に向かう。

自販機で自分と彼女の飲みもを買い、ベンチに座らせる。

俺はその近くに立ち、プルトップを開けて喉を潤した。

「回りくどいのは苦手だから単刀直入に聞く」

「はい」

「この間の告白は、俺と抱き合ったりキスしたりする好きなのか?」

「えっ!?」

「単に年上の男に甘やかされたいだけじゃないんだな?」

「・・・・・・はい」

「分かった。俺も腹をくくる」

彼女の腕をつかみ、自分の腕の中に閉じ込める。

男慣れしてないんだろう、全身ガッチガチだ。

「分かった。付き合おう」

「え?」

腕の中で見上げてくる彼女。

その額にキスを落とす。

「前から気になってたしな」

「ほんとに?」

「ほんとに」

そして頬にもキス。

「なんか・・・ずるいです」

「何が?」

「私ばかりドキドキしてる」

「そんな事ないぜ?」

「うー・・・」

「ま、ゆっくりとな」

「・・・・・はい」

「あ、そうだ、名前はでいいんだよな?」

「そうです。鵜養さんは?」

「俺は繋心。学校とかでは呼ぶなよ?」

「はい」

そして互いの連絡先を交換して手を繋いで彼女の家まで送る。

「あ、あの家です」

「覚えた。じゃあ、連絡する」

彼女を街灯の当たらない場所に連れて行き、今度は唇にキスをする。

「やっぱり鵜養さんだけ余裕でずるいです」

「いいんだよ。ほら、家に入れ」

「分かりました。送ってくださり、ありがとうございます」

家に入って行く彼女を見送り、俺も家に足を向けた。

「余裕を崩されたら困るんだよ・・・今は」

俺の独り言は、夜空に吸い込まれていった。




2016/09/20