02.その余裕を崩したい
店番をしていた頃、部活帰りっぽい女の子が良く買い物に来た。
アイスだったりお菓子だったりパンだったり。
ショートカットで大きなシューズケースなのを見るとバスケットだろう。
大人しそうな、綺麗な顔立ちをした女の子。
いつもの様に「帰ってちゃんと飯食えよー」と言えば「はい」と笑顔が返って来た。
だからと言って好きかと聞かれれば、そうでもない様な・・・
男が普通に擦れ違う女に目が行くのと同じだ。
コーチを始めてから夕方から店にいなくなったので、会う事も無かった。
けれど部活が終わって帰ろうとしたら彼女と遭遇した。
いつもの様に話して、いつもの様に別れた。
その女の子に告白されるなんて、思いもしなかった。
「繋心?お前ピッチ早すぎじゃね?」
「なんか様子が変なんだよな」
「お前らさ・・・年下の彼女ってどう思う?」
「最高なんじゃねえの?」
「いくつ下かにもよるだろ」
「んーーー女子高生は」
「犯罪臭いけど良いんじゃね?」
「犯罪だろ」
「だよな~」
「なんだよ、女子高生に惚れたのか?」
「やるな、繋心」
「惚れたっつーか・・・・・・告られた」
「「えぇーーーーー!?」」
「驚くよな~普通」
「で?OKしたのか?」
「繋心がね・・・物好きな子」
「可愛い?綺麗?繋心に告るくらいだから期待出来ないか」
「・・・・・・明日試合があるらしいんだよ」
「彼女の?」
「応援してくれって?」
「いや、彼女とは話してない」
「断ったのか?」
「いや、保留」
「明日休みだし、みんなで応援いくか!」
勝手に話しを進める友人たちを横目に、俺は煙草に火をつけた。
会場に到着し、俺達は保護者応援席では無い場所に腰を下ろす。
彼女に気付かれたくないからだ。
「どの子?」
「7番」
そして二人がコートを覗き込み、ガバっと俺を見た。
「「かわいい!!!!!」」
「あの子がお前を!?」
友人の言葉は無視してを見る。
シュート練習をしているが、中々決まらない。
ため息をつきながらクルっと後ろを向く。
ワンドリブルしてターン、そしてシュート。
ボールは静かにリングに吸い込まれた。
ホイッスルが鳴り、選手がベンチの監督の元へ。
今日の試合内容の確認などしているのだろう。
そして審判のホイッスルが鳴り、試合が始まった。
センタージャンプらかポイントガードにボールが渡る。
そこからパス回しの後、ボールはの手の中へ。
目の前には彼女より背の高いディフェンス。
体が左に傾いたと思ったらターンからドリブルしてゴールへ切り込む。
ふわっと放たれたボールは静かにリングに吸い込まれた。
「ナイッシュー!」
周りとハイタッチしながらディフェンスに戻る。
あの大人しいそうなから想像出来ないくらいの熱いプレイの数々。
ハーフタイムになり、俺はギャラリーを降りた。
喫煙所で煙草をくゆらす。
観に来て良かったのか悪かったのか複雑な心境だ。
正直、ああいう目を見るとな・・・
灰皿に吸殻を放り込み、ギャラリーに戻る。
「お?腹くくったか」
「お前好みだよな、彼女」
「だな」
そして試合が終わるまで俺たちは黙って見ていた。
日曜に練習試合があり、月曜の練習が休みになった。
俺は彼女が店に寄ってた時間に合わせ、店の前のベンチに座る。
予想通り、彼女が歩いてきた。
「よっ。お疲れさん」
「あ、こんばんは」
「今、ちょっと良いか?」
「あ、はい」
彼女を誘導する様に前を歩き、近くの公園に向かう。
自販機で自分と彼女の飲みもを買い、ベンチに座らせる。
俺はその近くに立ち、プルトップを開けて喉を潤した。
「回りくどいのは苦手だから単刀直入に聞く」
「はい」
「この間の告白は、俺と抱き合ったりキスしたりする好きなのか?」
「えっ!?」
「単に年上の男に甘やかされたいだけじゃないんだな?」
「・・・・・・はい」
「分かった。俺も腹をくくる」
彼女の腕をつかみ、自分の腕の中に閉じ込める。
男慣れしてないんだろう、全身ガッチガチだ。
「分かった。付き合おう」
「え?」
腕の中で見上げてくる彼女。
その額にキスを落とす。
「前から気になってたしな」
「ほんとに?」
「ほんとに」
そして頬にもキス。
「なんか・・・ずるいです」
「何が?」
「私ばかりドキドキしてる」
「そんな事ないぜ?」
「うー・・・」
「ま、ゆっくりとな」
「・・・・・はい」
「あ、そうだ、名前はでいいんだよな?」
「そうです。鵜養さんは?」
「俺は繋心。学校とかでは呼ぶなよ?」
「はい」
そして互いの連絡先を交換して手を繋いで彼女の家まで送る。
「あ、あの家です」
「覚えた。じゃあ、連絡する」
彼女を街灯の当たらない場所に連れて行き、今度は唇にキスをする。
「やっぱり鵜養さんだけ余裕でずるいです」
「いいんだよ。ほら、家に入れ」
「分かりました。送ってくださり、ありがとうございます」
家に入って行く彼女を見送り、俺も家に足を向けた。
「余裕を崩されたら困るんだよ・・・今は」
俺の独り言は、夜空に吸い込まれていった。
2016/09/20