01.こんなに嬉しくて悔しい
部活の帰りに寄る坂ノ下商店。
そこの店番をしてる人が好きだなーって思ってた。
買い食いをすると何かしら言ってくれる。
それが文句では無く、その人を思っての言葉で口は悪いけど良い人だなと。
でも、声を掛けてるのは私だけじゃないと知った時、ちょっと悲しかった。
三年になってすぐ、店番がおばちゃんに変わった。
このまま会えなくなるのかと思えば、部活帰りに学校で見かけた。
何で学校で?と思えばバレー部のコーチになったらしい。
私はバスケ部でバレー部と違う体育館で練習(女バレは同じ)しているので、結局は会えないのだ。
翌日練習試合を控えていたので準備で帰りが遅くなった時、
本当に偶然だけど彼と会う事が出来た。
「おお、良く買いに来る子か。今日は遅くねえか?」
「あ、はい。と言います。明日の練習試合の準備で遅くなったんです」
「なるほどな。もう暗いから気を付けて帰れよ」
「はい、お疲れ様でした」
「おつかれ~、明日頑張れよ~」
「はいっ!!」
たったこれだけ。
これだけの事で嬉しくてテンションが上がる自分が単純バカだなと思う。
そして翌日、頑張った結果、エースに恥じないスコアをたたき出す事が出来た。
気になってた私は同じクラスの澤村になんとなく聞いてみた。
「最近バレー部に男の人がいるよね?坂ノ下商店の」
「ああ、鵜養さん?そう、コーチに来てくれてるんだよ。ここのOBでさ」
「へぇ・・・店で見かけなかったからさ」
「ああ、何か期間限定だったのが無くなったんだよ」
「そっか。ありがとう」
「ああ」
OBと言う事は卒業アルバムが図書室にある!
私は放課後の部活前に急いで図書室に向かった。
1冊づつ時代を遡ってゆく。
数冊してやっと見つけた『烏養繋心』の文字。
遡った卒業アルバムからすると、年齢は26歳。
誕生日がまだの私だと9つも違う。
私から9歳引いたら・・・・・・8歳。小学生!?
何だが絶望的な気がしてきた。
年齢って、こんなにも・・・
芸能人が20歳離れてても結婚するのは大人同士だから。
誕生日が来たとしても成人する訳ではない自分。
何だか泣きそうになったので急いでアルバムを仕舞う。
カバンを持って部室に向かう。
「お?今から部活か?」
渡り廊下を歩いていると、烏養さんの声がした。
思わず振り返ってしまう。
「あっ・・・」
何だか我慢してた涙がこぼれそうになり、手の甲をぐっと唇に当てる。
「おい・・・」
「し、失礼します!」
頭を下げて立ち去ろうとしたら、腕を掴まれた。
そして廊下から見えないところに移動する。
「どうした?そんな顔して部活言ったら皆が心配すんだろ」
「・・・・・っ」
「まあ、言わなくても良いけどな」
そして頭に掌がポンポンと乗った。
私の目からは涙が溢れ、思わず彼の胸に額をあてた。
一瞬彼の体がこわばったが、突き放される事は無かった。
どのくらいの時間だったのか分からないが、やっと私の涙がとまってくれた。
彼から離れるけど、顔は上げられない。
「大丈夫か?」
「はい」
「良し、顔洗ってから行けよ?」
「あ、あの!」
顔は上げられないけど、何とか呼び止める。
けれどこのままではいられない。
手を顔に当て、半分隠すようにしながら彼を見た。
「好きです」
「は?」
「烏養さんが・・・好きなんです」
「・・・・・・えぇーーー!?」
物凄い勢いで彼の上体が反った。
「えぇ!?オレー!?」
「はい」
すると烏養さんは掌を顔に当て「え?いや・・・えぇー!」と叫んでいた。
指の間から見える顔が・・・赤い。
「いや、ちょっと待て!えぇー!?オレ、どう考えてもオッサンだぞ?」
「オッサンじゃないです」
「いや・・・えー・・・どうしよう・・・・・・いや、あーうん」
そして咳ばらいをして、私と向き合った。
「いや、ちょっとパニクってるから時間をくれ。ちゃんと答えは出す」
「はい」
「だったよな」
「はい」
「とりあえず部活行け。俺も行かなきゃいけねえし」
「はい。呼び止めてすいませんでした」
「いや、まあ・・・ありがとうな」
そして烏養さんは体育館に入って行った。
私も近くの水道で顔を洗い、部活に向かった。
2016/9/12