翌朝、準備をしてグラウンドに行くと見慣れないジャージ姿のがいた。
「他校生みたいだな」
「だって昨日学校ジャージ洗っちゃったから」
「微妙に丈があってないよね。中学の?」
「うっ……渡辺ってば鋭い」
「梅本か夏川に借りれないの?」
「インフルだから近寄るなって」
「ヒャハ!当然だよな。部員に頼んでやろうか?」
「いいよ。明日になれば学校ジャージあるし。明後日はまた考えるし」
「それなら上着だけはちゃんと着とけ。俺ので悪いけど」
俺はグラウンドコートを脱いでに渡す。
デカいのは分かってたけど、ここで彼女にまで風邪を引かれたら困るどころではない。
「でか……」
チャックを締めると尻まで隠れてしまった。
「着ぶくれ」
「うっさい。でも暖かいや。ありがと、御幸」
「暑くなったらベンチでも置いといて」
「りょうかい!」
「んじゃ、アップすんぞ」
「「「「「ういーっす」」」」」
そしてまた地獄の合宿がスタートした。
一日の予定をこなし飯も食って自主練の時間。
合宿中とはいえ、最低限の練習はするワケで。
室内練習場で投手陣と練習してると「お夜食でーす」という声が聞こえた。
出入口付近の所で手に息を吹きかけてるの姿があった。
はそのまま元来た道を戻っていく。
「さっき1年達があの姿エロいって会話してたぞ」
「ヒャハ!マジで?」
「なんや、あれや……彼シャツ?みたいやって。彼シャツって何や?」
「自分の彼女が、自分の白いYシャツだけ着てるヤツ」
「なっ!!!!?」
「ゾノ、顔真っ赤。想像したんでしょ」
そんな会話を聞きながらを見る。
自分のグラウンドコートを着てる……悪くねぇな。
けどまあ、悪くは無いけど自分の彼女では無いし。
「で?肝心の御幸はどうなの?」
「シャツじゃねぇし」
「まあ、確かに」
「足以外は隠れてるしな。まあ、足もジャージ履いてるから意味ないけど」
「そういえば……」
そのまま話題は逸れていき、食堂へ向かった。
自主練習を終え、再びを送りに来た。
家の前で彼女が自転車の籠から折りたたんであるグラウンドコートを持ち上げて俺に差し出した。
「あ、これ、ありがとうね」
「ああ。ずいぶんデカかったけどな。明日からどうすんの?合宿中使ってて良いけど」
「高島先生に借りたの」
「なるほど」
「あ、学校で返せば御幸君の荷物にならなかったか」
「走ってるから上着来てきてねぇし。問題ねえよ」
「学校であんなに練習してて、なおかつ私を送るためだけにランニングするなんて……本当に野球が好きなんだね」
「そう直球で来られると……」
「あ、照れちゃう?」
「なんかバカっぽくね?」
「そう?打ち込めるものがあるのは良い事だと思うけど」
「はっはっは。まあ、そういう事にしておくか。んじゃ、また明日な~」
「気を付けて帰ってね~」
に背を向けて走り出す。
練習の、しかも合宿中となれば体はガタガタだ。
けれど嫌じゃないのは僅かとはいえ、一人の時間が出来るからかもしれない。
手にした上着を持っていると走りにくいから、それに腕を通す。
「………」
ふわりと甘い香りが自分を纏う。
自分の物のはずなのに、何だか他人のものでしかない感覚。
胸にくすぶる感情から目を背ける様に、学校まで足を早めた。
2019/06/13