第二話

翌朝、準備をしてグラウンドに行くと見慣れないジャージ姿のがいた。

「他校生みたいだな」

「だって昨日学校ジャージ洗っちゃったから」

「微妙に丈があってないよね。中学の?」

「うっ……渡辺ってば鋭い」

「梅本か夏川に借りれないの?」

「インフルだから近寄るなって」

「ヒャハ!当然だよな。部員に頼んでやろうか?」

「いいよ。明日になれば学校ジャージあるし。明後日はまた考えるし」

「それなら上着だけはちゃんと着とけ。俺ので悪いけど」

俺はグラウンドコートを脱いでに渡す。

デカいのは分かってたけど、ここで彼女にまで風邪を引かれたら困るどころではない。

「でか……」

チャックを締めると尻まで隠れてしまった。

「着ぶくれ」

「うっさい。でも暖かいや。ありがと、御幸」

「暑くなったらベンチでも置いといて」

「りょうかい!」

「んじゃ、アップすんぞ」

「「「「「ういーっす」」」」」

そしてまた地獄の合宿がスタートした。



一日の予定をこなし飯も食って自主練の時間。

合宿中とはいえ、最低限の練習はするワケで。

室内練習場で投手陣と練習してると「お夜食でーす」という声が聞こえた。

出入口付近の所で手に息を吹きかけてるの姿があった。

はそのまま元来た道を戻っていく。

「さっき1年達があの姿エロいって会話してたぞ」

「ヒャハ!マジで?」

「なんや、あれや……彼シャツ?みたいやって。彼シャツって何や?」

「自分の彼女が、自分の白いYシャツだけ着てるヤツ」

「なっ!!!!?」

「ゾノ、顔真っ赤。想像したんでしょ」

そんな会話を聞きながらを見る。

自分のグラウンドコートを着てる……悪くねぇな。

けどまあ、悪くは無いけど自分の彼女では無いし。

「で?肝心の御幸はどうなの?」

「シャツじゃねぇし」

「まあ、確かに」

「足以外は隠れてるしな。まあ、足もジャージ履いてるから意味ないけど」

「そういえば……」

そのまま話題は逸れていき、食堂へ向かった。



自主練習を終え、再びを送りに来た。

家の前で彼女が自転車の籠から折りたたんであるグラウンドコートを持ち上げて俺に差し出した。

「あ、これ、ありがとうね」

「ああ。ずいぶんデカかったけどな。明日からどうすんの?合宿中使ってて良いけど」

「高島先生に借りたの」

「なるほど」

「あ、学校で返せば御幸君の荷物にならなかったか」

「走ってるから上着来てきてねぇし。問題ねえよ」

「学校であんなに練習してて、なおかつ私を送るためだけにランニングするなんて……本当に野球が好きなんだね」

「そう直球で来られると……」

「あ、照れちゃう?」

「なんかバカっぽくね?」

「そう?打ち込めるものがあるのは良い事だと思うけど」

「はっはっは。まあ、そういう事にしておくか。んじゃ、また明日な~」

「気を付けて帰ってね~」

に背を向けて走り出す。

練習の、しかも合宿中となれば体はガタガタだ。

けれど嫌じゃないのは僅かとはいえ、一人の時間が出来るからかもしれない。

手にした上着を持っていると走りにくいから、それに腕を通す。

「………」

ふわりと甘い香りが自分を纏う。

自分の物のはずなのに、何だか他人のものでしかない感覚。

胸にくすぶる感情から目を背ける様に、学校まで足を早めた。


2019/06/13

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