第九話
*御幸視点
普通、別れた時って相手の物を捨てたりするよな?
そう思いながら掃除をするけれど彼女が持ち込んだものなど1つも無い。
まるでこの事を分かってた様に物を置いて行く事をしなかった。
かと言って彼女の全てが無い訳じゃない。
思い出はあるんだ。
このベッドで一緒に寝た。
休みの日に一度も出ないでベッドにいた事もあった。
掃除をしながら、このカラーボックスに良く足をぶつけてたよな。
冷凍庫の一番上の奥まで手が届かなかったり、このマグカップ気に入ってたり。
そんな思い出を全て台無しにしたのは自分なのだ。
一緒に寝たベッドで他の女を抱き、同じ食器で飯を食った。
「クソッ!!!!」
本当ならテーブルの上の物をひっくり返してしまいたい気分だが、片付けるのは自分。
上着と鍵を持って玄関に行き、靴を履いて外へ出た。
俺の気分とは裏腹な天気がささくれだった気持ちを更に逆なでする。
もうわかってる。
ここの所さんの事など考えていない事。
考えてるのはさんの事ばかりだ。
だからと言って、彼女の電話とアクセスできない俺は何も出来ない。
曖昧な記憶をたどるしかない。
最寄りの駅から電車に乗り、彼女が話してた駅で乗り換えをする為に電車を降りた。
階段を上がろうとしたら、彼女がいた。
これには俺も驚いたし、運命なんてバカげた単語も浮かんだ。
「さん」
「!!!?」
声を掛けると物凄く驚いた顔をした。
彼女の前に立ち、話しかける。
「これから出掛けるの?」
「うん、そう。一也君は?」
「俺は「!!」」
すると見知らぬ男が駆け寄って来た。
「見かけたから・・・・え?御幸一也?知り合い?」
「親友の幼馴染なの、彼」
「すげえな・・・あ!握手とかして貰っても良いですか」
「・・・・・・良いですよ」
「ありがとうございます!やべえ、テンションあがる」
「はいはい、それじゃあ一也君」
彼女が俺に背を向け、隣の男の腕に手を添えた。
その後ろ姿を見て思うのは、手を繋いで歩いた事が一度も無かったな・・・
あの男とキスをして、あの男に抱かれるのだろうか。
甘い声で啼いて、あの甘い声で誘い、甘い声で愛を語るのか。
あの潤んだ瞳であの男を見上げるのだろうか?
次々と湧き上がってくる真っ黒い感情。
失って気付くってこういう事か。
腰に両手を当てて下を向いて黒い感情を息と一緒に吐き出す。
もっと簡単に行くと思ってた。
さんは俺を好きだから、歩み寄れば何とかなると思ってた。
話をする事さえ叶わないとは・・・
自分のものだったものが手を離れたから悔しいのか?
執着心なのか恋愛感情からくる独占欲なのか。
そんなのは分かってる。
そこにいる一般的にいう良い女を見ても何とも思わないからだ。
ここまで彼女を好きでいたなんて信じられない。
けれど事実を受け入れなくてはならない。
もう一度息を吐き出す。
さんが消えた方を見据え、次にすべき事を考えだした。
2017.05.22