第八話



視点




同僚から「飯でも食いに行こうぜ」と誘われたので頷いた。

連れて行かれたのは焼鳥屋。

「女の子と焼鳥とか、もう少し気を利かそうよ」

「そんなの彼女にだけするもんだ」

「なるほど」

カウンターで横並びに座り、ビールのジョッキを傾ける。

「だからさ、今度はイタリアンレストラン行かないか?」

「そういうのは彼女と行くんでしょ?」

「だから誘ってんだろ?」

「え?」

ジョッキを置いて隣を見れば真剣な顔をしていた。

「お前、最近元気ないだろ」

「なんで」

「見てたから分かる。弱ってるとこ付け込むみたいだけど構わない」

「・・・・・」

「とりあえず飲んで食え。すんませーん、砂肝追加」

それから彼は話題を変えてくれた。

別れ際に抱きしめられ「考えてくれ」と言って私をタクシーに乗せた。



の結婚式。

とにもかくにも素敵だった、何もかも。

一也君は私との関係に驚いていた。

彼の言い分も聞かず、距離を取ってしまったから余計だろう。

何か言いたそうにしている彼に気付いたが、隙を作らない様にしていた。

一也君は暇さえあれば声を掛けられていた。

男性もだけど女性にも。

それでいい。

二次会に向かう前、化粧をなおそうとしたのが悪かった。

「どういう事?」

化粧室を出た所で腕を掴まれる。

どういう事も何も無い。賢い一也君は全てを理解してるはずだ。

「分かってるでしょ?一也君なら」

さんから説明して欲しいんだけど」

「私はと親友で、一也君が昔からが好きだったのを知ってた。これで良い?」

「そんな簡潔に済む話か?」

「済むでしょ?」

「済まねえよ!!」

「何故?一也君が好きなのはであって私じゃないでしょ?

1回抱いただけじゃ満足出来なかった?

まだ身代わりが欲しいの?

それを私に求めるのはヤメて」

「っ!!!?」

これから捨てられる犬か猫の様な顔をする一也君。

きっと彼は以外の事は切り捨てる側だったのだろう。

そして今日の結婚式だ。

一度手に入りかけた惚れた女が嫁いだのだ。

寂しいよね。

でも私の心も弱いから、慰めてあげられない。

「幸せになって。貴方を幸せに出来るのは私じゃないの」

それは本心だった。

もうこれで彼と交わる線も点も無い。

ちゃんと彼に笑って言えてただろうか?

彼と話すのもこれが最後。

そう思ったら足に力が入らずバランスを崩す。

それを隣に立っていた男性が「あぶないっ!」と支えてくれた。

これからもずっと、一也君じゃない人が私の隣にいるはずだ。



2017.05.19