第七話



視点



一也君から毎日『会いたい』と連絡が来る。

断り続けているのも限界だった。

もう腹を括るしかない。

騙し続けた責任を取らなくては。

彼もきっと形だけの『恋人』である私に罪悪感を持っているだろう。

解放してあげなくてはならない。

実際にお店で会った彼は、元気が無かった。

外で会ったのは、家だとなし崩しに抱かれるのだけは嫌だったから。

私は彼が好きだから、きっと断れない。

ワインを飲み、運ばれてくる料理を食べる。

次第に一也君も笑顔になっていった。

このまま別れれば気分よく別れられるのに。

私の期待とは裏腹に腕を掴まれ、ラブホテルの入り口まで来た。

足が無意識に止まる。

「嫌?」

「やっぱり・・・抱くんだ」

「今日はダメ?」

「彼女を抱いた手で、私を抱くんだね」

「え?」

一也君は私との事を知らない。

これは八つ当たりだ。

彼は最初から、私の物じゃないのだから。

「ごめん、やっぱり耐えられない。もう、無理」

堰き止めていた物が涙となって溢れ出す。

さん?」

いきなり泣き出した私に慌てているんだと思う。

そういう優しさ、好きだった。

もう過去形にしてあげなくちゃいけない。

目を瞑り、気持ちを落ち着かせる。

閉じた目を開いて彼を笑顔で見る。

「さようなら、一也君。もう会わない」

彼の腕を振りほどき、とにかく走った。

手を挙げてタクシーを拾う。

運転手に行先を告げ、走ってきた道をみるけど一也君はいない。

窓に頭を預ける。

「当たり前か・・・」

彼は最初から私の事なんて好きでも何でもなかったんだから。

タクシーの中に、乾いた笑いが消えていった。

彼のアドレスと電話番号、繋がり全てを拒否設定にする。

通話、メッセージボックス全て削除。

そして最後にアドレス帳から『御幸一也』の文字を消す。

泣くのは帰ってからにしよう。

明日は休みの日だから思いっきり泣ける。

泣いて泣いて一也君への想いを流してしまえば良い。

そう思ってたのに。

泣いても変わらない気持ちなんて何で神様は与えたのだろうか。

電気のスイッチみたいに簡単に切り替えられれば良いのに。

スマホを手にしても彼の痕跡は何も残っていない。

今日はもう顔が酷い事になってるから、次の休みに携帯を買い替えよう。

スマホを放り出してバスルームに向かい、頭から熱いお湯をかぶった。




2017.05.17