第五話



視点



高校生の時、親友の家に遊びに行った。

「あ、ちゃん」

親友をそう呼んだ男の子がいた。

小さい眼鏡を掛けた可愛い男の子。

頬に絆創膏を付け、いかにも活発な男の子。

隣にいる私など見向きもしないでと話す姿が可愛かった。

の家に行けば、先ほど会った男の子の話しばかり。

彼女の口ぶりからしても、可愛い弟の様なのだと分かった。

しばらくして専門学校に入り、その時付き合ってた人が野球好きで持ってた雑誌が切欠だった。

【青道高校、御幸一也】の文字に目が行った。

『御幸』なんて珍しい苗字なのもあった。

雑誌に載っている彼は、あの頃の可愛さ等無かった。

そこに映る姿は男の人そのもの。

私は彼に恋をした。

に話せば連絡先など聞けるかもしれない。

けれどそれは出来なかった。

そもそも彼は私の事なんて覚えてるはずもないのだから。

一也君の事ばかり考えていて、そんな気持ちで彼氏と上手くいくはずもない。

彼に別れを告げ、時間が許す限り一也君の試合を見に行った。

ストーカーみたいだなと思ったけど、付き合うとかそういう気持ちでは無かった。

憧れ・・・ファンの心理!!そう思い込んでいた。

一也君は注目選手だからか時折雑誌に出ており、そのたびに雑誌を購入。

家は野球雑誌だらけになってしまった。

それから数年、転機がやってくる。

一也君が所属する野球選手が、うちの歯科に治療に来たのだ。

そして先生がいない時、先輩歯科衛生士を口説いていた。

先輩には好きな人がいたし、合コンならと言う事になって私も誘われた。

お店に行けば上手い具合に一也君も来ていた。

前に一度会っただけだし、やはり私の事なんて覚えて無かった。

とりあえず連絡先を交換しようと言われ、何度か食事に行って付き合う事になった。

一也君から私を好きだと言うのは感じられなかったけど、私は舞い上がっていた。




一也君との待ち合わせ場所に向かう途中、ショッピングモールでデートをしてるを見かけた。

声を掛けるか迷ったが、視線の先にいる一也君を見て止めた。

ああ、一也君はが好きなんだ、と気付いた。

その日、一也君の家に呼ばれる事になる。

これ幸いと会う時はこの部屋が良いと提案した。

それはこの家にいれば、二人だけの時間が持てるから。

この時だけは一也君を独占できるから。

彼の家に行く時は下着も化粧道具も持ち歩く。

急な時にはコンビニで調達したり、彼の家に物を置くことをしなかった。

不信に思われないのは、そこまで彼に想われていないからだろう。

別れ際に振り向くと見える背中。

これがなら、姿が見えなくなるまで見送るのかな?

彼だけではなく、私の頭の片隅にもいる

彼と付き合っているのは私なのに、幸せになれないでいた。
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2017.05.12