第四話
あれからさんと一切連絡が取れなくなった。
メールは戻ってくるしメッセージアプリも宛先が無い。
電話も通じない・・・・・・お手上げだ。
元々好きで付き合ってた訳じゃないから困る事は無いし、
俺の荷物が彼女の家にある訳でも無い。
そもそも行った事が無いんだから。
彼女の職場も知らない。そもそも仕事って何だったっけ?
それくらい彼女の事を知らない。
それなのに今・・・・・・何を必死になっているんだろう。
自分の手の中にあった物が、勝手に無くなったからだろうか?
「どうした?御幸。調子悪いな。あの歯医者の子と喧嘩でもしたかー?」
潤さんと似た雰囲気の岸谷先輩がニヤニヤと近づいてくる。
そして俺の2つ隣のロッカーを開ける。
「歯医者?」
「お前の彼女。なんだ、別の女になったのか?」
「え?いや、変わってないっす」
「いいよな~あの子 。結構胸デカいし」
「なんですか、人の彼女の胸のサイズまで」
「お前より先に知り合ったのは俺だ!」
「っていっても岸谷が知ってるのは胸が当たったーって程度だろうが」
「十分っすよ」
「そもそも歯石取って貰った時にだろ?御幸の女より別の・・・」
歯医者?歯石??
そこまで来て思いだした。
彼女は歯科衛生士だ。
職業は思いだせたけど、どの歯医者か思い出せない。
思いだした所でどうする事も出来ない。
俺から話の逸れた事に安堵しつつも溜息をつく。
モヤモヤした気持ちのまま、さんの結婚式の日を迎えた。
その日は快晴で、二人を祝福するかの様な天気。
スーツを着て、車で会場に向かう。
俺の気分とは裏腹な天気に舌打ちしたくなる。
時間ギリギリに到着する様にしたため、直接チャペルへと案内さ れた。
なんだかんだと幸せそうな顔をしたさんが父親と腕を組みながら入ってくる。
バージンロードを歩くさんと目が合って微笑まれた。
幸せそうで安心した。
自分には出来ない事をあの男がするのだ。
大事な人だからこそ、幸せになって欲しい。
素直にそう思えた。
その後、披露宴会場へ移動する。
席次を見て驚いた。
俺のテーブルに『』とあるからだ。
紙から視線を上げ、会場を見渡す。
・・・・・・いた。
水色のドレスを着た彼女が。
周りの友達と楽しそうに話をしながら歩いてくる。
いや、それ以前になんでここに?
さんか新郎の関係者なのは分かる。
程なくしてさんと友達が席に来た。
「失礼します」
久しぶりに聞くさんの声。
話しかけようにも彼女が友人と話してるので声が掛けられない。
「御幸選手、ですよね?」
そして自分もあちこちから声が掛かるからだ 。
話が出来ないまま宴が始まる。
お色直しをした二人が音楽と共に入ってくる。
司会者の声と共に式は進行していく。
キャンドルサービスの時、さんが言った。
「一也君、、覚えてない?」
「・・・・・・え?」
「覚えてる訳ないじゃない、御幸君、中学生だよ?」
え?御幸君?覚えて?中学??
俺の頭に?マークがどんどん浮かぶ。
俺は彼女に会っていたのか?
さんを見ると苦笑いをしながら「ごめんね、が」と言った。
「なに?までプロ野球選手の知り合いなの?」
「だから一瞬会っただけなんだって」
さんはまた友人と喋り出してしまった。
彼女と話す事が無いまま、披露宴が終わってしまう。
俺は二次会へ参加しないから、ここでさんを捕まえないと次が無い。
彼女が化粧室に向かった時、出てくるのを待ち伏せした。
化粧室から出て来た彼女が俺を見ても素通りしようとしたのを腕を掴んで強引に止めた。
「どういう事?」
「・・・・・・分かってるでしょ?一也君なら」
「さんから説明して欲しいんだけど」
「私はと親友で、一也君が昔からが好きだったのを知ってた。これで良い?」
「そんな簡潔に済む話か?」
「済むでしょ?」
「済まねえよ!!」
「何故?一也君が好きなのはであって私じゃないでしょ?
1回抱いただけじゃ満足出来なかった?
身代わりが欲しいの?
それを私に求めるのはヤメて」
「っ!!!?」
俺の目を見て話す彼女を黙って見つめる。
さんは俺の正面に立ち、俺の頬に手を添えた。
「幸せになって。貴方を幸せに出来るのは私じゃない」
そう微笑んださんが、素直に綺麗だと思った。
友達の元へ戻って行く彼女がよろけ、それを支えた男の腕が自分の物じゃないのに腹が立った。
さん同様、彼女を幸せにするのも俺じゃないんだなと思った。
2017.05.09