第八話
「でも、見合いするつもり無かったですよね?」
の言葉が胸に響いた。
全く持ってその通りだから、ぐうの音も出ない。
「見合いはさ、うちでというか父親の工場で働いてる人からの話でさ。世話になってるし。写真や釣り書きみてもスペックで付き合う訳でもないし。それなら写真見なくてもいいかなと思って。断られて写真見たらナベの結婚式で見かけたちゃんだし。気になってたんだよね」
「・・・・・・」
「それにさ、見合いにノリノリ前面に押し出す男ってどうよ?」
「それはちょっと・・・」
「んじゃ、良いじゃん」
苦笑いした彼女に笑って見せる。
そして手を伸ばして彼女の頬を撫でる。
「本当に面白くないですから」
俺の手から逃げる様にベッドに横になり、タオルで目元を覆う。
多分恥ずかしいとか、そういう感じなんだろうな。
けれど先を促すように頬を撫で続けた。
「今の職場のお偉いさんと付き合ってたんです」
そしてそのままちゃんは言葉を続けた。
今の職場に就いて、彼が指導係でした。
そこから一緒にいる時間が増えて付き合う事に。
長く付き合ってれば結婚とか考えるんですけど、そういう話が全然なくて。
結婚の話しにも触れないし、避けられてると思い始めたのは去年で。
この人は結婚っていう概念にとらわれない人なんだろうと。
けれどそれが違ってて・・・
今年の夏に、同じ職場の年配の女性が
「この間一緒に歩いてたの奥さん?いつ産まれるの?」って言ったんです。
私が見てたのも知ってるのに「秋に産まれる予定です」と彼は言ったんですよ。
その時に自分が遊ばれたんだなって。
長年付き合った自分がばかばかしくなって。
それからも連絡は来て、話がしたいと。
そして昨日、家の前で待ち伏せされたんです。
話を しないなら大声で騒ぎ立てるって言って。
奥さんは勝手に子供を産むから自分は関係ないと。
だから私が例え一也さんと結婚しても二人共立場は同じだろうって。
そこまで話をした時、タオルでも吸いきれない涙が流れた。
俺はそのタオルをどけて泣いてるちゃんにキスをして、そのまま彼女を抱いた。
いや、もうヤバかった。
理性がぶっ飛ぶ寸前・・・・・・飛んだかも。
前の時と違って甘えてくる素振りがあったり、快楽から逃げようとしたり・・・・とにかくヤバかった。
明日(あ、日付変わってる)は休みだって言ってたから・・・まあ、目の腫れは良しとしよう。
せっかく眠ってるのに起こすのもかわいそうだ。
とにかく今は、安息を与えたかった。
彼女の体と密着する様に抱きしめながら瞼を閉じた。
2017/11/15