第七話
*視点*
「も結構ヤルじゃん」
「離してください」
「何で?もっと深い繋がりしてただろ?」
「仕事中です」
「それなら仕事終わったらの家に行くから」
ホーム長は私の手をニヤニヤしながら解放した。
夜勤を終えて家に向かう。
すると本当に部屋の前にホーム長がいた。
「・・・・・・」「・・・・・・早く開けろ」
私は溜息を付いて部屋の鍵を開ける。
そしてドアを開いて中に入ると、背後から彼が入って来たのが分かる。
ドアが閉まるかどうかのタイミングで抱きしめられ、シャツの中に彼の手が入り込んで来た。
「ちょっ!止めて!!」
「他の男と寝たんだろ?俺より良かったのか?」
「止めてって言ってるでしょ!!」
なんとか腕から逃れ、彼を見る。
「別れ話、したわよね?」
「納得してねえよ」
「もうすぐ子供が生まれるんでしょ!?」
「それとこれとは別だろ?勝手に産むのはあの女だ」
「結婚してるんでしょ?」
「お前もその男とすれば同じだろ」
「なにいって・・・」
「俺に抱かれてる時、気持ちいいんだろ?」
「なにを・・・」
「なあ、ヤろうぜ?」
距離を詰めて来た彼、縮めた分下がるには私の部屋は狭すぎた。
彼の唇が私の首筋に近付いた時、私の携帯が鳴った。
私は彼を押して距離を作り、カバンから携帯を取り出す。
表示されてるのは『御幸一也』の文字。
今 の状況で 出られないと思ったから切ろうとしたら、携帯を取られた。
「お前がの新しい男か?俺の女に手、出すな」
そう言って電話が切れる。
「ちょっと!!」
「場所変えるぞ」
「ちょっと、離して!!」
「騒ぐな。警察に通報されるぞ?」
「困るのは貴方でしょ?」
「・・・・・・分かった分かった。今日は帰る」
両手をあげて降参と言わんばかりのポーズをして部屋を出て行った。
「・・・・・・っ!!」
その場にズルズルと座り込み、溢れてくる涙を止められないでいた。
あんな男に惚れた自分がバカだと自己嫌悪しかない。
夜勤の疲れもあって、私はそのまま泣きながら眠ってしまった。
「ん・・・・・・・」
「目、覚めた?」
「え??」
声が聞こえて目を開ける。
目の前には見慣れないトレーナーの文字が。
顔をあげると、一也さんがいた。
「え?」
「鍵、開いてたよ」
体を起こすと私の部屋で、ベッドに横になってる一也さんの上に私が乗る形で寝ていたらしい。
「ご、ごめんなさい!!!!」
「タオルとビニールってどこ?」
「あ、キッチンと・・・すぐ出しますね」
「よろしくー」
そして二人でベッドから起き上がる。
言われた物を用意するとそれを受け取った一也さんが冷凍庫を開けた。
「勝手にごめん」
そう言って袋に氷を入れ、そこに水を足してキュっと結ぶ。
「タオルでくるんで目元に当てて。できれば仰向けで」
そう言われたのでベッドに寝転がり、言われた通りにする。
すると火照った目元にひんやりした感覚が。
「保冷剤だと固いから、こっちのがフィットするんだよね」
「確かにそうですね」
氷の冷たさが、思考も冷やしていってくれる。
けれど温かい手が、私の髪を撫でた。
「聞 いても良 い?」
「面白くもなんともないですよ」
「でもの事だし」
「私からも質問して良いですか?何で私に構うんですか?」
「結婚したいから」
「でも、見合いするつもり無かったですよね?」
タオルをどかして上半身を起こしながら私は疑問に思ってた事を口にすると、一也さんが息をのんだのが分かった。
見合いの話が出て、彼の写真を受け取った。
物凄いイケメンで、プロ野球選手として活躍していると。
今は丁度オフシーズンに入ったし、デートもしやすいだろうと。
そして私の写真を渡したとも聞いた。
見合いは私も乗る気じゃなかったけど、自分の環境を変えるのにいいかと思った。
そして友人の結婚式で彼を見かける。
友達と笑い合う姿は写真で見るより柔らかい。
なんとなく見ていたら彼も私を見た。
「あ・・・」
けれど彼の表情は何も変わらない。
ああ、きっと私の写真を見ていないんだと思った。
見合いも親か周りに言われて仕方なく、その程度なのだろうと。
そんな人と見合いをしても何もならない。
それならば早々に断れば彼は私の存在を知る事も無く済むだろうと思った。
けれど話は変な方向に向かっていく。
彼は私に会いに来て、結婚したいと言った。
ホーム長もそうだけど、彼も訳が分からない。
だからもう、はっきりさせよう。
2017/11/13