第五話
昨日の事が気になって、なんとなく彼女の職場付近まで来た。
そこから駅までのルートを考え、おそらく通るであろう道にあった店でコーヒーを飲みながら待ってみる。
携帯から外に視線を移すと、ちゃんが歩いていた。
呼び止めて振り向いた顔は昨日以上に曇っていた。
疲れた顔をしているから、一緒に出掛けるのは無理だろう。
だから近くにあったファミレスを指差した。
まだ渋りそうな彼女の手を掴んで店内へ。
案内された席に着いて受け取ったメニューを広げる。
パラパラメニューを捲って注文する物を決めてテーブルに下ろす。
目の前のちゃんは何にするのか迷ってるらしい。
顔色はあまり良くないけど、悩んでる姿は可愛らしかった。
食欲があるのは良い事だし。
彼女を見ていたらメニューから顔を上げたので、テーブルの上のボタンを押して店員を呼ぶ。
注文してる時も驚いてたけど、並んだ皿の量も驚いていた。
多分かい摘まんで弁当に入れれば幕の内弁当になるだろうと言う品揃え。
「食べる?」と聞けば「良いんですか?」とおかずを摘まむ。
あれこれしているうちに「色々貰ったんでハンバーグも分けてあげます」と俺から遠ざけたハンバーグを貰った。
「車だから家まで送るよ」
近くのパーキングに停めた車に行き、彼女を助手席に乗せる。
走り出した車の中で、静かに会話をしていたのだが・・・
静かになった隣に目を向ければ、眠っている彼女。
「おーい、ー」
と呼びかけても返事も無ければ動きもしない。
俺は一度車を停めた。
シートの上に投げ出された彼女の手を掴んでみる。
けれど 反応が 無い。
このまま彼女の家に行って起きなければ鍵を探さないといけない。
それならば・・・
俺はギアを再びドライブに入れて車を走らせて自分の家に向かった。
駐車場に車を停め、助手席のドアを開ける。
そこには先ほどと体勢が変わっていない彼女がいる。
シートベルトを外し、彼女の鞄を背負って膝裏と背中に手を差し入れる。
眠っている彼女をお姫様抱っこで抱え上げ、足でドアを閉めて掌にある鍵で施錠する。
駐車場には車からロックを解除しないと入れないし、駐車場から家の中に入るにはセンサーの鍵でロックが外れてドアが開くようにしてある。
野球の道具って大きいから荷物になるし、楽に入れるようにしたのだ。
だから彼女を抱えて家に入るのは簡単。
開けっ放しの寝室に入り、足で上掛けをどけて彼女を眠らせる。
「よいしょっと・・・」
とりあえず毛布を掛けて部屋を出た。
風呂に入って着替えを済ませて寝 室へ。
すると上を向いて眠る彼女がいた。
これは本当に起きそうにない。
このまま眠れば風邪をひくだろう。
ひとまず上に着ているパーカーを脱がせにかかる。
「ん・・・」
何とか起こさずに脱がせる事に成功した。
と、思ったら腰に彼女の腕が絡みついた。
どうやら脱がせた分、寒くなったらしい。
「ソファで寝ようと思ったのにな・・・」
彼女の温もりに白旗を上げる。
ベッドに入り込んで布団を掛け、彼女を抱きしめる様にする。
すると彼女の体が密着してきた。
「はぁ・・・理性が保てるうちに寝よう」
枕の下に腕を通し、反対の手で彼女を抱きしめる。
「んっ・・・」
「ああ、ごめん」
苦し気な声が聞こえたので腕の力を緩める。
眉がきゅっと寄せながら眠る。
俺は髪を耳に掛ける様にしながら梳いた。
そのまま髪を撫でていると、その寝顔が穏やかなものに変わる。
「おやすみ」
露わになった額にキスをして、俺も眠りに就いた。
2017/11/01