第四話
*視点*
結局昨日は御幸・・・一也さんとの食事も嫌な終わり方をしてしまった。
デートでも無いのに結局マンションまで送ってくれた。
手を繋いで大きな袋を持って・・・なんとなく新婚みたいでくすぐったい気持ち。
その気分を打ち消す1本の電話。
名前を見ただけで真っ黒い何かが私の中を覆った気がした。
そういう気持ちは特に一緒にいる人に伝わってしまう。
もう忘れたいのに。
「あ!ちゃん一昨日イケメンが訪ねて来たわよ」
早番でそれに合わせて職場に行くと、夜勤だった金子さんと廊下ですれ違った。
金子さんは私の腕を掴んで反対の手で口元を隠しているが、ニヤニヤしてるのが分かった。
「もう、あんな素敵な彼氏がいるのを隠してるなんて」
「え?ちがっ」
「彼氏って?」
背後から人が近付いてた事に気付かなかった。
「ああ、ホーム長。昨日話したちゃんを訪ねてきた人の話しですよ」
「ああ、あの。さん、恋人いたんだね」
「・・・・・・・そうです。それじゃあ、仕事に行きますね」
二人に頭を下げて仕事に向かう。
タイミングと言うのは良いのか悪いのか微妙なものだ。
「」
ズカズカ歩いていたのに腕を引かれて足が止まる。
そして腕を引かれて物陰に連れ込まれた。
「いつ彼氏が出来たんだい?」
「・・・・・・ホーム長に関係ないですよね?」
「はそんなに簡単に手の平を返す事が出来るんだ?」
「なにを勝手なっ・・・やめて!!!!」
近付いてくる彼から顔を背ける。
頬に少しかさついた唇が触れた。
「先月までは普通にしてただろ?」
「今は関係ありませんから」
「別れたつもり無いけど?」
「どの口がっ・・・」
「ホーム長?どこ行ったんだろ・・・」
二人でコソコソとやり取りをしていると、彼を探しに来た人がいた。
彼から体を離して距離を取る。
すると彼は溜息を付いて小声で「また連絡する」と言ってこの場を離れた。
彼の背中が見えなくなった時、深呼吸をして頬を叩いて仕事に戻った。
1時間の残業で仕事を終え、職場を後にする。
この次点で時間は7時過ぎ。ここから家まで30分か・・・
最寄りの駅で牛丼でも食べるかと考えながら歩いていると「ちゃん」と後ろから呼ばれた。
「え?一也さん?」
「待ってたんだよね。一緒に夕飯でも食べない?」
「今日はちょっと」
「約束がある?」
「いえ、ご飯食べて寝ようと思ってただけです」
「疲れた顔してるしね。じゃあ、そこで良いから付き合ってよ」
指差したのはビルに入ってるファミレス。
しかも学生に人気の格安の店。
「ほら、行こう」
と、また腕を取られて階段を上らされた。
店員に案内され、窓際の4人席に腰を下ろす。
さっとメニューを差し出され、今の気分にマッチするものを選ぶ。
良し!と思って顔をあげると、一也さんが頬杖をついて私を見ていた・・・気がする。
気がするのは私がメニューから顔を上げたら「決まった?」とテーブルに置かれた呼び鈴のボタンを押したから。
そして注文した量に驚いた。
テーブルに並べられたものは、4人で来た時くらいの皿が並んだから。
「高校時代は朝晩どんぶり3杯の飯食ってたんだよね」
それも納得の量だったのだ。
「いただきます」と箸を付けてパクパクと口に入れていく彼。
プロ野球の、しかも1軍でプレイしてる人なら高級な物を食べてそうなのに。
この間の店も、今日の店も気取ってる要素は1つもない。
それに対して文句1つ言わない彼。
次々に綺麗になっていくお皿を見て、何となく笑ってしまった。
「笑う要素あった?」
「凄い食べるんだなって」
「ん?ああ、こういう店って一皿の量も多くないしな」
「そうですね」
「やっと笑った」
「え?」
「ほら、早く食べないと俺が食べちゃうけど?」
「え?ヤダ。お腹減ってるんで」
伸びて来た彼の箸から自分の注文したハンバーグを遠ざける。
そして二人で笑いあった。
今日一日モヤモヤしていたものが、晴れたような気がした。
2017/10/30