第二話



見合いまで後数日となった日の夜、佐代子さんが俺の帰りを待っていた。

話の内容としては、見合いが中止になったと言う事。

延期ではなくて、無かった事にして欲しいらしい。

別に佐代子さんのせいじゃないから気にしてないと伝えて駅まで送った。

そして家に帰って見合い写真や釣り書きを処分しようとして,どうせ最後になるならと封筒を開けた。

出て来たのは仰々しい台紙に貼られた写真ではなく、自分で作成する様な簡素な物だった。

けれどそこに映っていた人物を俺は知っていた。

「っ!!!?」

先日ナベの結婚式で俺を見て驚いた彼女だった。

これであの時の彼女の表情が納得できた。

けれど見合いを断られた理由が思い当たらない。

何か変な事したかな?

別に参加してた女性の連絡先を聞いてまわった訳じゃないし、どちらかと言えば仲間といたし。

まあ、握手やサインを求められて応じてはいたけど。

その前に、何でこんなに断られた理由を考えてるんだろう?

しかも浮気を疑われてる旦那みたいな。

なんとなく納得できないので釣り書きを開いてみる。

そして翌日の夕方、彼女の職場へと向かった。




彼女の職場に到着するも、住宅街の様な場所で時間を潰せる場所も無い。

『グループホーム○×』と書かれた看板があり、彼女の職場なのは間違いない。

ここで待つのも限界がありそうだ。

「あの、うちに何か御用でしょうか?」

「え?」

ちょっと年配の女性が話しかけてくれる。

施設の名前の入ったポロシャツを着て買い物袋を持っている。

ここの社員だろうか?

さん、いらっしゃいますか?」

「今日はもう帰りましたけど」

「え?」

「連絡する様に伝えますか?」

「ああ、いえ。自分で連絡してみます。ありがとうございました」

と言ってその場を後にする。

とりあえず職場にいないんだから家に行ってみるか?

ここまで来たら最後まで貫き通したくなる。

なので調べて電車を乗り継いで、彼女の家に向かう。

駅から歩いて10分の所にそのマンションはあった。

けれど見上げた所で彼女の部屋がどれかなんてわからない。

とりあえず携帯を取り出して昨日登録しておいた彼女の連絡先にかける。

6コール目に「・・・・・・・もしもし」と声が聞こえた。

きっとこれは寝ていたであろう声。

「こんばんは。起こしてごめん、御幸一也です」

「・・・・・・・はい、お世話になってます」

(お世話?)

「御幸ですよ」

「・・・・・・・・はい」

「今から部屋に伺います」

「・・・・・・・はい」

「それじゃあ」

「・・・・・は、え?ちょっ!?」

俺は携帯を閉じて建物に入る。

すると同時に入った人がいたので一緒にエレベーターに乗り込み、彼女の部屋がある階のボタンを押す。

そしてエレベーターから降りて彼女の部屋の前に立ち、インターフォンを押す。

すると程なくして僅かな隙間が空いた。

「こんばんは」

「あの、お話する事ありませんけど」

「俺はあるし」

「申し訳ありませんが」

「ここで騒いでも良い?」

その瞬間にドアが閉まり、鍵が外れた音がしてドアはが開いた。

髪が乱れてスッピンでTシャツとレギンスを着た彼女が現れた。

「あの・・・夜勤明けで寝てたので」

「ああ、ごめん」

「それで話って」

「俺と結婚を前提にお付き合いしませんか?って話」

「・・・・・・」

「聞いてる?」

「・・・・・・見合い、断りましたよね?」

「見合いはね」

「結婚式で私の事分からなかったですよね?」

「あの時はね」

「見合い自体、乗る気じゃなかったですよね?」

「相手がちゃんって知らない時はね」

「私には結婚の意思なしって伝わってませんか?」

「断った理由は別の理由でしょ?」

「・・・・・・」

「チャンスくれない?挽回するからさ」

「意味がわかりません」

「これから知ってくれれば良いよ」

「私にその気はないのにですか?」

「二日前、それ以前にはその気だったよね?」

「・・・・・・」

「電話番号しか知らないからメアドおしえて」

「え?LINEが」

「ああ、俺、ガラケー信奉者だから。タブレットもあるけど、ガラケーしか使ってねえし」

「え?」

「あ、今、古いとか思っただろ」

「えぇ!?」

「だからメアド教えてよ」
「・・・・・・はい、わかりました。赤外線ですか?」

「口頭で良いよ、入力は慣れてるから」

そう言ったらちゃんが初めて微笑んだ。

その顔がまた見たくなったって言ったら、また笑うだろうか?



2017/10/26