第一話
家に帰って机の上に封筒があって、そこには『御幸一也様』と書かれていた。
それを手に取ると切手が普通の物では無く、裏返せば知人の名前が書かれていた。
「ナベも結婚か・・・」
自分の同級生達が次々と結婚していくのに、俺は未だに独り身を貫いていた。
恋人と呼べる存在はいたが、生涯を共にしようと思える人と出会っていないと言うべきか。
もういっそのこと独身を貫いてもいいかもしれないと思いだしている。
高校を卒業してプロに入り、寮生活が終わる前に実家を改築して今は親父と住んでいる。
その親父も「結婚しろ」とも言わないし「彼女はいないのか?」とも言わないのが助かっていたのだが。
それからしばらくして、展開が変わる。
「一也」
「ん?何?」
仕事を終えて戻ってきた親父が大きな真っ白い封筒を差し出してきた。
「その・・・佐代子さんがな・・・」
佐代子さんと言うのは親父の会社で長年経理をしてくれてる女性だ。
母親がいない自分にとって、面倒を見てくれた人でもある。
「もしかして見合い?」
「ん?・・・まあ、気乗りしないなら・・・・・・断っていいぞ」
「でも佐代子さんだし・・・・・まあ、いいよ」
「分かった。写真は?」
「別にいいよ」
「じゃあ、話を進めておく」
そしてこの話は見合いの前日まで食卓の話題にあがる事は無かった。
ナベの結婚式当日。
「人前式」で行われる式から招待されているので、それに合わせて家を出る。
会場近くで他の仲間と待ち合わせ、会場に入ると既に東尾と工藤が受付をしていた。
字を間違えただの、ご祝儀はどうするかだのと、下らない事で騒いでいた。
何となく新婦の受付側を見ると、手伝っている女性と視線があった。
彼女は一瞬驚いた顔をしたと思ったら表情を戻し、軽く会釈をして視線を移した。
・・・・・・。
まあ、こういう反応をされるのは初めてじゃない。
多分彼女は野球を知ってる人なんだと思う。
だから気にも留めないでいた。
二次会になると新郎新婦の周りも友人だらけになり、接触する時間が格段に増えた。
そして今、ナベと二人でグラスを合わせたところだ。
「御幸は結婚しないの?」
「したくないワケじゃねえけど」
「それこそ合コンとかありそうなのに」
「あるにはあるし、彼女がいないってワケでもねえし」
「いるんだ?」
「先月別れた」
「お見合いとかは?」
「ん?まあ、あるって言えばある」
「どんな女性が良いの?」
「え?こだわりねえけど」
「ふーん・・・案外細かいこだわりがあるんだね」
そんなつもりは無いけど、指摘されるとそうなのかもしれない。
それ からナベ が移動して、ゾノと倉持が戻ってきた。
その向こうにさっきの彼女が見えた。
「ヒャハっ!あの子が気になんのかよ」
「あかんで、さんはもうすぐ見合いするらしいからな」
「マジか!彼氏いてもおかしくねえだろ」
「この間別れたばっからしいわ」
「ヒャハハ!!残念だったな、御幸」
と二人が盛り上がっているけど、俺は話を聞かないでいた。
そして二人の向こうに見える彼女をなんとなく見てた。
2017/10/25