ここから始まる恋物語 第14話
全く違う生活をしている二人が一緒に住めば、次々と問題が出てくる。
そういう時は話し合い、時には喧嘩もした。
一也くんはホームゲームじゃない時は家を空けるし、心の整理を付ける事も出来た。
シーズン中に同棲を始めたのは、悪くなかったのかもしれない。
けれど1つだけ気になった事があったので夕飯の時に聞いてみる。
「飲んで帰ってくる事はあるけど、うちに誰か呼んだりしなくて良いの?」
「あー・・・・・・うん」
「そっか・・・」
「あ、それで今日さ、・・・」と一也くんが話題を変えた。
ちょっと不自然な気もしたけれど、言いたくない事なのだろうと思った。
こういう時に聞こうとしても絶対言ってくれないのは今までの付き合いで分かったから。
けれど一人になると考えてしまう。
確かにこの間取りで人が呼べるかと言われたら無理だと思う。
同棲してる事を話してるのだろうか?
話してるとしたら邪魔されたくないから?
もしかしたら紹介するのが恥ずかしい・・・・・・とか。
自分で自分の事が情けなくなった。
『彼女のフリ』をしてる時も一般人だからと言うメリットを生かした訳で。
「ダメだ…自分が美人でも可愛い子でも無い事が、こんなにも堪えるなんて」
一也くんがいる時はそうでも無いけど、1人でいると落ち込む時間が増えた。
そんなこんなで迎えたシーズンオフ。
うちの球団は2位という成績で終わったのだ。
シーズンが終わっても私の仕事は休みにならない。
一也くんにはゆっくりして欲しいから彼を起こさず、私は仕事に出掛けるのだ。
もうすぐ終業と言う時、金田課長が社に戻って来た。
「お?間に合った」
「急ぎの仕事ですか?」
「そうだ。飲みに行くぞ。御幸には話してある」
「は?」
「おーっと時間だな。早く荷物まとめてこいよ~」
何が何だか分からないまま、ロッカーから荷物を持って部屋に戻る。
「んじゃ、行くか」
とりあえずエレベーターの中で一也くんにメッセージを入れる。
そして金田課長に拉致される様に彼の行きつけのお店に行った。
行きつけのお店と言っても、会社の近くにある焼鳥屋だ。
いつもの様に奥にある個室に上がり、飲み物と食べ物を頼んで乾杯をする。
「で?御幸と順調か?」
「ニヤニヤして気持ち悪いですよ」
「失礼なヤツだなー。俺のおかげで彼氏が出来ただろうが」
「くっ・・・痛い所を」
「で?アイツから話し聞いたのか?」
「話し?なんのですか?」
「何だ、まだか…」
「いったいなんの・・・」
「金田さん!!!!」
バンっと大きな音を立てて障子が開き、そこにいたのは一也くんだった。
2017/09/11