ここから始まる恋物語 第12話
結局一也くんの意見が通り、広めの1LDKのマンションで一緒に住む事になった。
「シアタールームは結婚して家を建ててから」と言われて複雑な気持ちになる。
この人は本当に私との未来を考えてくれていると。
自分は彼に何が出来るのだろうか?
子供の頃から漠然とあった「結婚」の文字が、やけにリアルに感じられた。
「ちょっと!自分の荷造でしょ!!?」
ぼーっとしていたらに頭を小突かれた。
「あ、ごめん」
「まだ悩んでんの?」
「悩んでるっていうか・・・して貰ってばっかりだなーと思って」
「尽くされてるよね」
「デスヨネ」
「それが不服?」
「正直言って、自分にそこまでの価値を見出せません」
「自分で言う?」
「最初の話に出て来たアナウンサーと比べたって見た目で劣るし、秀でた物が何も無い」
「まあ、確かに・・・・・・って、睨まないでよ」
「そう考えたら御幸さんは私のどこが良いのかなって」
「見えない何か」
「例えば?」
「性格」
「可愛げもないけど?」
「そこが良いとか?」
「変な人だね、それ」
「確かに」
「でもさ、会社公認で良いじゃん」
「良いのかなー」
「前向きに考えなよ」
「そうだね、努力するよ」
そして荷造を済ませ、彼が先に引越しを済ませている部屋へ移動した。
午前中に引越しを済ませ、午後から片付けをする。
今日は土曜日で一也くんは地方での試合で戻るのは月曜なのだ。
だから彼と会うのは月曜の仕事が終わってからとなる。
基本的に自炊をする彼のおかげで冷蔵庫には材料がそろっていた。
メニューを決めて材料を取り出し、調理する。
ご飯を食べてお風呂に入り、映画を観ようとDVDをデッキに入れる。
場所が変わっただけで普段と何も変わらない。
でも、映画を観る環境は前より上がった。
クッションを置いて体勢を整えるとスマートフォンが振動する。
停止ボタンを押して通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『もしもーし。引越し終わった?』
「終わりましたよ。試合終わったんですか?」
『今終わってシャワー浴びてホテル戻るとこ』
「お疲れ様です」
『・・・・・・あのさ、そろそろ敬語やめない?』
「え?あー・・・頑張ります」
『ほら、また』
「うっ・・・」
『ベッドでは素直なのになーは』
「一也くん!!!!」
『はっはっは。今日明日はちゃんと寝ておいてね』
「?はい?」
『それじゃあ、おやすみ』
「おやすみなさい」
そして電話を切って再生ボタンを押した。
この言葉の意味を理解したのは、火曜日へと日付を越えた頃だった。
2017/09/05