ここから始まる恋物語 第4話



「ふぁぁ・・・・・・」

昼休みの応接室は、私のランチの場所。

花の金曜だし、何かドラマを借りてみようか。

スマートフォンからレンタルショップのアプリを立ちあげて他人の書き込んだレビューを読む。

あれこれチェックをしていると、メッセージを受信した。

届いたメッセージをタップすると、相手は御幸選手。

『今日会いたい。例の店に寄って駅前で何か借りて一緒に観よう』

二日前にも連絡が来て、イタリアンレストランに連れて行って貰ったばかりだ。

と言うか、今週三回目・・・

恋人同士ならそれも当たり前なのかもしれないけど、私達は見せかけのものだ。

一緒にご飯は良いとして、あの部屋で映画を観るのは・・・

【一緒に】という事は・・・あのベッドに並んで観る・・・・・だよね~。

今まで付き合った人とは、そういう事をしてきた。

でも今はあくまでも【彼女のフリ】であって、自宅の中でまでする必要は無い。

というか!

イケメンと付き合った事が無いから近付くとドキドキするんです!!!!

ついでに名前呼びも慣れません。

「恋人が御幸さんって呼ぶのも変じゃん」

「いや、変と言われても・・・」

「いっそのこと呼び捨てでも良いし」

「無理無理無理!御幸選手の方が年上ですし」

「返事しないよ?」

「子供ですか」

「男なんてそんなモンでしょ。はい、呼んで」

「・・・・・・一也さん」

「却下」

「えぇーー!!?名前で呼んだじゃないですか」

「なんか他人行儀っぽい」

「むちゃくちゃな・・・」

「だから呼び捨てで良いって」

「それは絶対無理です。・・・・・・じゃあ、一也くん」

「あ、なんかそれ良い」

「・・・・・・じゃあ、これで」

と、この間決めたけど慣れない。

私にとって御幸選手は身近な男性では無く、テレビに映る芸能人と同じなのだ。

外を手を繋いで歩いていれば人の目が気になるし。

色々と早々に解決して欲しい、じゃないと私の心が持たない気がする。



仕事が終わって御幸選手の最寄りの駅に行く。

改札を出るとちょうど彼が来て、手を繋いで定食屋へ向かう。

今日は干物がオススメで、それを注文。

ひじきの煮物は絶品だった。

定食に舌鼓を打ち、駅前のレンタルショップへ行く。

御幸選手の好きなジャンルから見たいものを選んだ。

そしてコンビニに寄って映画のお供を買って家に向かう。

家に着いて準備をしてベッドに上がらせて貰うと、DVDが再生された。

その瞬間、部屋の電気が落とされる。

「え?」

「この方が雰囲気出るじゃん?」

2つ並べたクッション、そこに二人並んで座る。

セミダブルのベッドは鍛えられた体をしている御幸選手とだと狭く感じるほどだ。

意識したのは最初だけで、観た事の無い映画に引き込まれた。

正直、大きい画面でゆったりみれるココが気に入ってたりする。

「ふぅ・・・・・・え?」

スタッフロールが流れていたのに、急に真っ暗になった。

というか御幸選手のドアップ!!!!

私の両脇に腕を付いているんだと思う。

「・・・・・・」

「・・・・・・襲われる、とか思わない?」

「はい」

「え?何で?」

「部屋の中でイチャイチャしても意味無いですよね?」

「そういう解釈か・・・。俺が欲求不満でちゃんで晴らそうとしてる、とか?」

「それこそ有り得ません」

「彼氏いる?」

「いたら引き受けてませんけど」

「そっか・・・・・・。ごめん、送ってくよ」

そう言って体が離れて腕を引かれる。

帰り支度を済ませると部屋を出て車に乗り込んだ。

ゆっくり走り出した車は、いつも通り私の家へと向かって走った。

「それじゃあ、ありがとうございました」

いつもの様に助手席の窓が開き、そこから覗き込んでお礼を言う。

すると彼は「ニッ」と笑ってこう言った。

「やっぱり正攻法じゃないとフェアじゃないよな」

「え?」

「おやすみ。また連絡する」

「あ、はい。おやすみなさい・・・?」

そして走り出した車を見送った。


2017/08/04