ここから始まる恋物語 第3話
先ほど出て来た建物に、今度は入って行く。
建物に入ってから繋いでいた手は解放された。
そしてエレベーターに乗り込み、上の方の階のランプが点く。
エレベーターを降りるとドアが並んでいるが、その感覚は思っていたよりも狭い。
「はい、どうぞ。昼間のうちに掃除もしたし」
「お邪魔します」
案内された部屋に足を踏み入れれば、想像していた部屋では無かった。
玄関を上がって数メートルでローテーブルがあり、その向こうにベッドがあったから。
けれど肝心の物が見当たらない。
「あの・・・テレビは?」
「ん?そこの壁。お茶とコーヒーと紅茶どれがいい?」
「あ、おかまいなく」
「んじゃ、セットするか」
ベッドの足元の壁には大画面のテレビが。
その下にチェストがあって、そこにデッキが収まっているらしい。
チェストとベッドに隙間はある。
けれどこの大画面はベッドの足元に座ったら観にくい!!!!
「ヘッドボードにクッション置くと見やすいよ」
「えーと、さすがに人様のベッドは・・・」
「俺が言い出した事なんだし、気にしない気にしない」
「はいどうぞ」って・・・・・いや、気にしますから。
ここで貴方が寝てるんですよね??
神経質っぽいイメージなのに平気なのだろうか。
ローテンブル横に置かれた大きなビーズクッションが渡され、背もたれにする。
そしてリモコンも渡され、鑑賞体勢が整いつつあった。
クッションの位置を決めかねていると、小さなトレイが横に置かれアイスティらしきものが置かれた。
「電気は点けさせて貰うよ」
「あ、はい」
何かノートの様なのをヒラヒラさせ、ローテンブル脇に腰を下ろした。
すると画面が映像を映し出した。
ストーリーとしては普通の青年が女優に恋して、映画監督になるけど女優さんは既に結婚して子供もいて・・・みたいな内容だ。
ノリの良い歌と踊りがあり、煌びやかな世界観。
失恋の雰囲気さえコメディにしてしまう。
「へぇ・・・面白いね」
いつの間にか上半身をベッドに乗せて御幸選手が一緒に観ていたらしい。
欝々とした気分も吹き飛ぶボリウッド映画。
画面から目を離さない彼に、思わず微笑んだ。
映画が終わり、さっきの映画の話になった。
新しくお茶を淹れてくれ、テーブルを囲んで話をする。
他にはどんなのがあるのかとか、洋画や邦画の話などをした。
ふと自分の腕時計に目をやると、10時をはるかに超えた時間だった。
「あ!そろそろ帰ります」
「もうこんな時間なんだ。送ってくよ」
「いえ、さすがにこれ以上は」
「こういう時は甘えるのが彼女でしょ」
「いえ、そういう甘えは・・・」
「じゃあ、俺が心配だし送りたいから送らせて」
そう言って彼も腰を上げ、車で家まで送ってくれた。
最初に乗った時は会話らしい会話も無かったけど、帰りは楽しいものとなった。
「ここ?」
「あ、はい。3階の右端です」
「そっか。それじゃあ、明日も仕事頑張って」
「えっと・・・色々ありがとうございました」
「あ、今度は一也って呼んでよね、ちゃん」
白い歯を見せて笑う顔は、子供みたいだなって思った。
2017/08/01