04.並びたいのは貴方の隣(御幸視点)
部活を引退して、一般の寮に移った。
それでも何となく野球部の面々と学校へ向かう。
「・・・・・・最近増えてねえか?」
倉持も最初はからかってきたが、今では憐れむ様に俺を見る様になった。
下駄箱に入っている手紙。
ラブレターと呼ばれるものからファンレターだったり呼び出しだったり。
もうすぐ三年は登校日が数日になるからだろう。
けれど彼女達には応えられない俺は溜息をついて無視を決め込んでいる。
応援してくれる気持ちは嬉しいが、そこに恋愛感情は混ぜられない。
彼女達が必死な様に、俺も必死なんだ。
教室に入ると進路が決まっていない者は必至で勉強をしている。
授業は行われるが、主に自習がメイン。
時折混ぜられる卒業式の練習。
今のご時世、大半の生徒が進学。
俺は就職とも違う世界に足を踏み入れる。
入団一年目は必ず寮生活となってしまう。
さんは就職と同時に引越し。
特別離れてもいないし、近くも無い。
寮の門限もあるし。きっと今と同じように頻繁に会う事は出来ないだろう。
新しい環境に慣れ、コミュニケーションも取っていかないといけない。
やる事は後から後から腐るほど出てくる。
「御幸くん、ちょっと」
放課後に寮に戻ろうとすると、一人の女生徒が俺の腕を掴んで引っ張る。
慌てた様子だし、とりあえず大人しくついていく。
空き教室に連れて行かれ、彼女が俺の方を向いた。
「1年の時から好きだったの。付き合ってくれないかな?」
彼女は男子の中でも可愛いと評判の子だった。
けれど部長キラーと言う通り名もあり、部長と付く男と付き合っては別れを繰り返していた。
そんな中に俺の名前を連ねたくない。
「悪いけど」
「御幸くんに年上は合わないよ!」
「はぁ?」
「あんなオバサンじゃなくて、若い子と付き合うべきだよ!!」
「話しになんねーな」
俺 は彼女に背を向け、教室を後にしようとした。
けれど腕に彼女が絡みついて離さなかった。
「魅と付き合ってよ!魅のが絶対可愛いもん!」
この時、俺の中で何かがキレた。
力任せに腕を引き、彼女を睨む。
「好きな女をバカにされ、そんなオンナと付き合うワケ無いだろ」
「どうして!?」
涙を浮かべ、それでも大声を上げる。
すると廊下を歩いていた人物が驚いて覗きに来た。
「悪いけど、俺は彼女だけが好きで、それ以外の女はどうでもいい。
陸だけをチヤホヤしてくれる男探せよ」
俺はそれだけ言って教室を後にする。
部屋から泣き叫ぶ声が聞こえたが、彼女と関わりたくない。
イライラした気持ちを抱えながら、俺は寮に戻った。
翌日。
「ヒャッハッ!御幸、お前相当悪く言われてるぜ」
「は?」
教室でこの間の練習試合のスコアブックを見ていると倉持が寄って来た。
それはそれは楽しそうに。
「マダムと付き合ってるとか噂があったぜ」
「めんどくせー」
「さん見たら、みんな驚くんだろうな」
「見なくて良い」
「ふーん・・・」
ニヤニヤと俺を見下ろす倉持をよそに、スコアブックを見る。
この後に起こる事態は、さすがの俺でも予想出来なかった。
「え?何で??来るって言ってた?」
校舎を出ると、そこにはさんがいた。
「良くわからないけど青道に行けってラインが」
「誰から?」
「青道OBで私の後輩」
「何しに?」
「行けって」
「ヒャハハ!先輩、お久しぶりッス!」
「あ、倉持君」「倉持」
「先輩呼んだの、オレっす」
「そうなの?」「え?なんで?」
「クリス先輩経由で頼んだんスよ」
「クリス?ああ、あの子か」
「実は、御幸の彼女が妖怪だって噂まであって」
「「妖怪!?」」
「これでイチャついてりゃ噂もぶっ飛ぶんじゃね?ヒャッハ!」
失礼しまーすっと言って倉持が去る。
俺はさんと向き合って、二人でふき出した。
「さん、この後暇?」
「予定はないよ」
「んじゃ、少し付き合ってよ」
彼女を促し校門を出る。
そして彼女の手を取り指を絡めた。
「ちょっ!?」
「いいから。妖怪じゃないって見せびらかさねえとな」
視界の隅に陸が見えた。
俺が一緒に歩いていたいのは彼女だと。
これからも俺の隣を歩き続けるのは彼女だけなんだ。
翌日から「御幸がニヤけ顔で綺麗な彼女と歩いてた」と噂がすり替えられた。
2016/9/2