03.追いつきたい、追い越したい【大きくなりたい理由】(御幸視点)
小学生の頃から必死でやってきた野球。
その合間に勉強や恋愛をしていた様なもの。
彼女と言う存在もいた。
さんと付き合い出してから思うのは、
俺は絶対的恋愛経験値が低いって事。
就職活動にしたって大学の事にしたって分からない事が多すぎる。
それに今までに彼氏だって・・・
自分にだっていたんだから、彼女にだっていただろう。
その男は何で別れたんだろう?
彼女は男を頼りにしていたんだろうか?
男は彼女を甘やかす事をしていたんだろうか?
彼女は男をまだ好きなんじゃないか?
そんな下らない事が頭の中でグルグルしている。
どうしたって年齢の差は埋められない。
ならば精神的な意味で彼女の支えになれるだろうか?
男の精神年齢はマイナス4歳と言われている。
4つ離れているんだから8歳違う事になる。
・・・・・・考えてたら落ち込むばっかりだな。
そんな時、教室の出入り口から名前を呼ばれる。
クラスメートと一緒に立っている女生徒を見て、何となくわかった。
その子は去年のクラスメートで割と会話をする子だった。
教室を出て屋上へ続く階段の踊り場で告白をされた。
「ごめん。悪いけど」
「お試しでもダメかな?」
「無理。ごめんな」
それだけ伝え、教室に戻る。
気分が上がらないまま授業を終えた。
鞄に教科書などを詰め込んでいると、メールを着信する。
相手はさんで土曜に会わないかと言うものだった。
そして当日の土曜日。待ち合わせの駅に向かう。
「で?今日はどうする?」
「んー駅ビルに行きたい店があって」
「んじゃ、プラプラしますか」
「?」
二人で今日の事を話していると、さんを呼ぶ男の声が。
その男はニコニコしながら近寄って来た。
「ああ、陸くん」
「なにして・・・って、男連れか」
「なによ」
「親戚の子?」
「失礼な。彼氏だよ」
「は?年下?」
「そうだよ~イケメンでしょ」
「が年下のイケメンとね~。犯罪?どんな手使ったのか教えろよ」
「企業秘密。金取るよ?」
「うへっ!こんな女で良いのか?少年」
「もちろん」
「あっそ。ごちそうさん」
男の人はヒラヒラ手を振って去って行く。
「なんなんだ、あの男は。まあ、いいや。行こうか」
さんは俺の腕を取り、駅ビルに入って行く。
エスカレーターに横並びに立つ。
「良いの?」
「何が?」
「あんな事言っちゃって」
「困る事あった?」
「いや、無いけど・・・」
「・・・・・・ちょっと来て」
再び腕を取られ、階段の方に向かう。
そこは丁度人気が無かった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
向き合って立ったは良いが、会話が無い。
さんも何か言いたそうだけど口にする事も無い。
と思ったら「あのさ」と声がした。
「もしかして・・・別れたい?」
「は?」
「ん~今日の一也なんか変だし」
「ちがっ!」
「あ、そっか」
何か思いついたさんの手が俺の肩を掴んだ。
そして力が込められ、俺の上半身が傾く。
肩から手が外れ、彼女の掌が俺の首の後ろで組まれる。
そして顔が近付いてきて・・・「好きだよ」と耳元で囁かれた。
「・・・!!!!」
それは彼女から聞く初めての告白だった。
俺は彼女の腰を抱え上げ、階段の一段高い所に降ろした。
「初めて聞いた・・・」
「初めて言ったからね~」
「本当に?」
「疑り深いな」
「まだ・・・信じられない」
すると顔が近付いて唇が重なる。
彼女の首を支え、俺は何度も何度もキスをした。
そして顔を離し「もう少し待ってて。追いつくから」と言うと、
「年齢だけは越せないわよ?」って笑って返された。
2016/8/29