最終話.この思いは一過性のものではない(御幸視点)
年が明け、俺は高校生であって高校生では無くなる。
入寮・入団し、キャンプがあり、練習が始まる。
学校自体も登校日が減るし、学校にこだわりもないから気にならない。
専ら気になるのはさんだ。
予定をすり合わせて行くと、予定が合わない。
そこで俺は大胆な提案をした。
「入寮するまでさんの所に居候して良い?」
「・・・・・・え?」
それからさんは条件を付けた。
おそらくそれは俺がクリア出来ないと見越しての事だった。
「お邪魔しまーす」
キャスター付きの旅行鞄に大きなバッグを持ち、彼女の家に上がる。
「凄い荷物だね」
「まあね。このまま入寮しようと思ってるから」
引越し準備を始めてるさんの空いたタンスに自分の洋服を入れて行く。
なんだか気恥ずかしい物があるな。
そして粗方仕舞い終わる頃、さんに呼ばれた。
テーブルに用意されたお茶と一枚の紙とペン。
そこにはこれから一緒にいる5日間の予定が書かれていた。
「私の予定書いておいたから、一也の予定も書いてくれる?」
「ああ、わかった」
受け取ったペンを取り、予定を書き込んでいく。
改めて見てもデート出来るような暇はない。
さんも就職して初任給までの生活費を稼ぐためバイト三昧の様だ。
改めて見ると本当に朝と夜しか一緒にいられない。
同居を強引に進めて良かった・・・
ペンを置いてさんを見ると「はい」とグーに握られた手を差し出してきた。
何も考えずに手を差し出すと、掌の上にさんの体温で温められた鍵が。
「無くさないでね?」
「・・・・・・良いの?」
「だって無いと困るじゃない」
「そうだけど・・・ありがとう」
合鍵って言うのは信頼の証の様な気がする。
ただの合鍵だけど、俺にとっては物凄い重い意味のあるものだった。
「ただいま~」
「おかえり~」
玄関から彼女の声が聞こえる。
夕飯の準備をしてる俺は今手が離せないからキッチンから大きな声を出す。
お世辞にも大きくない部屋はキッチンから玄関も丸見えだ。
「今日も美味しそう・・・」
朝から晩までバイトをしてるさん。
その合間に用事が終わる自分は、大抵夕飯を作って待っている。
料理をするのは帰省した時以来だったが、さんの口には合う様だ。
手を洗って戻った彼女が席につき、俺は最後のご飯と味噌汁をテーブルに並べる。
「「いただきます」」
「・・・おいしー!」
「天才的だろ?」
「ほんとに」
ご飯を食べながら、互いの出来事を話す。
些細な出来事でも、一緒にいられる時間は貴重だ。
ご飯を食べ、俺が風呂に入ってる間にさんが洗い物をする。
その後にさん(一緒に入ってくれない)が入り、二人でまったりする。
そして甘いひと時を過ごして就寝。
シングルベッドで二人で寝るのは正直キツイ。
けれど彼女を抱きしめて眠れるのは幸せを感じさせてくれた。
「ねえ、さん・・・」
「ん?」
俺の腕の中で眠りに落ちる寸前の彼女に話しかける。
すっぽり収まる小さな体。
「いつか・・・遠くない未来にさ、また一緒に暮らそう」
「・・・・・・うん」
ぎゅっと抱き着いてきた小さな体を抱きしめ返す。
本当に愛おしいくて仕方がない。
もう少しだけ待ってて。
さんの全てを守れる様になるからさ。永遠に・・・
2016/9/5