第五話

手を繋ぎながら歩いて倉持家を目指す。

何となく気恥ずかしさから会話は無い。

「ただいまー」

玄関を入って靴を脱ぐ。

彼は変わらず荷物を持ち続けてくれていて、部屋まで運んでくれた。

そして夕飯になり、お母様にも事情を説明する。

「なら家が決まるまでうちにいれば良いんじゃない?」

「え?」

「洋一はどうせ野球でいないし、おうちの水、出ないんでしょ?」

「ええ、まあ」

「それならば新しい家が見つかるまでいなさいよ。私も女の子がいて嬉しいし」

「いいんじゃねえの?」

と言う事で、彼の家への居候が決定した。



家を探すというのは賃貸とはいえ中々難しい。

時期が悪いのと、予算が低い事が災いしている。

「くっ・・・このアパートは神的存在だった」

講義を終えて新居を探し、家に戻って残りの学校の資料を持って倉持家に帰る。

倉持は案外帰りが遅いので私が風呂から上がっても帰っていない事が多い。

下手をすれば顔を合わせない日もあるくらいだ。

そんなある日、私もゼミの飲み会が行われて帰るのが遅くなってしまった。

けれど今は家が遠いので二次会は断ってきた。

「案外早かったな」

最寄り駅で改札を抜けると、柱に寄りかかっている倉持がいた。

「あれ?何でいるの?」

「知るか」

背中を向けて歩き出す彼に駆け寄り、その手を握る。

きゅっと握り返されて思わず微笑んだ。

「何笑ってんだよ」

「いや、案外ベタベタなんだなって」

「なんだそれ」

と言い終わるかどうかの時にチュっとキスされる。

いや、ほんと・・・ベタだな。

「そういや、家はどうした?」

「芳しくなかったんだけど、今日教授と話したら紹介して貰えそう」

「マジ?」

「うん。大学まで20分くらいのとこらしい」

「どのへん?」

「○○町って言ってた」

と言うような会話をしながら倉持家に着く。

丁度洗い物をしていたお母様の手伝いをしてお風呂に入る。

「あ・・・」

お風呂から上がって彼の部屋をノックする。

けれど返事が無いから静かにドアを開けてみる。

どうやら部屋の主は雑誌を読みながら寝てしまったらしい。

練習で疲れているのに迎えに来てくれて・・・。

ベッドの上にある雑誌を避けて「ほら、布団掛けて」と彼の下から布団を引っ張り出す。

「ん・・・」

布団を取り出そうとしている反対側を向いた隙に上掛けを掛けようとすると彼の腕が巻き付いて来た。

「うわっ!」

・・・」

ぎゅっと抱き枕の様に抱きしめられてしまった。

「ちょっ、ちょっと!」

文句を言った所で力が緩む訳では無い。

抜け出るのは諦め、彼の腕の中で眠る事にした。



2017/09/27

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