「頑張ってー倉持くーん」
グラウンドの客席で彼の野球を見ていた。
私は三塁側に座っていて、ショートの彼が良く見える。
相手チームと知り合いなのか、グラウンドで話す姿が良く見られた。
なにより、彼の足の速さが半端じゃなく凄かった。
あの応援している女の子達の気持ちが分かったかもしれない。
ベンチに座り、あれこれ考えてみる。
そもそも彼は見た目は怖いけど悪いワケでは無い。
身長だって170そこそこはあるから自分より高い。
口は悪いけど優しくて気が利くタイプだ。
運動神経も良いし、鍛えられた体をしてる。
「・・・・・・っ!!!?」
昨日の朝の事を思いだした。
無意識とはいえ、あの体に抱きしめられながら寝ていたのだ。
そう考えたら無性に恥ずかしくなってきた。
1人で照れている間に試合が終わったらしい。
気付くとスマートフォンが振動していた。
ポケットから取り出して電源を入れるとメッセージを受信していた。
『着替えてミーティングしたら帰る。6時に○×駅で』とあった。
そして駅周辺でブラブラして、待ち合わせ場所に行く。
すると倉持は女の子二人と喋っていた。
「遅えぞ、」
「えっ!?」
いきなり名前を呼ばれて驚いた。
すると一緒にいた女の子の一人に睨まれた・・・気がする。
そして倉持は私と手を繋ぎ、改札へ向かった。
「悪いけどこのまま」
改札で一度放した手を繋ぎ直してホームの階段を上がる。
そして上がりきった所で手が再び放れた。
「悪い、しつこくて」
「え?ああ、彼女達スタンドでも応援してたし」
「応援してくれんのはありがたいんだけどな」
「倉持って彼女いないんでしょ?」
「誰でも良いってワケじゃねえし」
「好きな人いるの?」
そう尋ねると彼はバッと振り向いて目を見開いて私を見た。
「え?」
「いたら悪いのかよ」
「い、いるんだ・・・」
「ほら、電車来んぞ」
そう言って私の背中に手を添えて電車に乗り込んだ。
そうか・・・好きな子、いたんだ。
その子はこの手にこうやって守られる。
「っ!!!!!」
そう思ったら胃の辺りを何かがせりあがってくる感じがした。
口元を押さえると、涙まで流れそうな感じがする。
「?おまっ!!?」
さっきはと呼んだ声が、今度は苗字を呼ぶ。
彼の顔を見たく無くて目を閉じると頬を涙が伝う。
「・・・・・こっち」
倉持が私の腕を掴んで歩き出す。
すると車椅子の人用のエリアの端に立たされた。
「くらもっ・・・んっ・・・・」
名前を呼ぼうとした唇が塞がれる。
すぐに離れた唇を追う様に目を開けると、彼の腕に囲われている。
「泣くな」
そう小さな声で言葉を紡いだ唇が、再び私のそれを塞ぐ。
電車の揺れもあり、彼の腰の辺りを掴む。
顔を隠している腕はそのままで、反対の腕が私を抱き寄せた。
「物凄く恥ずかしいんだけど・・・・・・」
「一駅だし歩くぞ」
そう言って最寄りの駅より前の駅で電車を降りた。
2017/09/19