第三話

「頑張ってー倉持くーん」

グラウンドの客席で彼の野球を見ていた。

私は三塁側に座っていて、ショートの彼が良く見える。

相手チームと知り合いなのか、グラウンドで話す姿が良く見られた。

なにより、彼の足の速さが半端じゃなく凄かった。

あの応援している女の子達の気持ちが分かったかもしれない。

ベンチに座り、あれこれ考えてみる。

そもそも彼は見た目は怖いけど悪いワケでは無い。

身長だって170そこそこはあるから自分より高い。

口は悪いけど優しくて気が利くタイプだ。

運動神経も良いし、鍛えられた体をしてる。

「・・・・・・っ!!!?」

昨日の朝の事を思いだした。
無意識とはいえ、あの体に抱きしめられながら寝ていたのだ。

そう考えたら無性に恥ずかしくなってきた。

1人で照れている間に試合が終わったらしい。

気付くとスマートフォンが振動していた。

ポケットから取り出して電源を入れるとメッセージを受信していた。

『着替えてミーティングしたら帰る。6時に○×駅で』とあった。

そして駅周辺でブラブラして、待ち合わせ場所に行く。

すると倉持は女の子二人と喋っていた。

「遅えぞ、

「えっ!?」
いきなり名前を呼ばれて驚いた。

すると一緒にいた女の子の一人に睨まれた・・・気がする。

そして倉持は私と手を繋ぎ、改札へ向かった。

「悪いけどこのまま」

改札で一度放した手を繋ぎ直してホームの階段を上がる。

そして上がりきった所で手が再び放れた。

「悪い、しつこくて」

「え?ああ、彼女達スタンドでも応援してたし」

「応援してくれんのはありがたいんだけどな」

「倉持って彼女いないんでしょ?」

「誰でも良いってワケじゃねえし」

「好きな人いるの?」

そう尋ねると彼はバッと振り向いて目を見開いて私を見た。

「え?」

「いたら悪いのかよ」

「い、いるんだ・・・」

「ほら、電車来んぞ」

そう言って私の背中に手を添えて電車に乗り込んだ。

そうか・・・好きな子、いたんだ。

その子はこの手にこうやって守られる。

「っ!!!!!」

そう思ったら胃の辺りを何かがせりあがってくる感じがした。

口元を押さえると、涙まで流れそうな感じがする。

?おまっ!!?」

さっきはと呼んだ声が、今度は苗字を呼ぶ。

彼の顔を見たく無くて目を閉じると頬を涙が伝う。

「・・・・・こっち」

倉持が私の腕を掴んで歩き出す。

すると車椅子の人用のエリアの端に立たされた。

「くらもっ・・・んっ・・・・」

名前を呼ぼうとした唇が塞がれる。

すぐに離れた唇を追う様に目を開けると、彼の腕に囲われている。

「泣くな」

そう小さな声で言葉を紡いだ唇が、再び私のそれを塞ぐ。

電車の揺れもあり、彼の腰の辺りを掴む。

顔を隠している腕はそのままで、反対の腕が私を抱き寄せた。

「物凄く恥ずかしいんだけど・・・・・・」

「一駅だし歩くぞ」

そう言って最寄りの駅より前の駅で電車を降りた。


2017/09/19

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