体育館のある駅に付いても、黒尾さんは手を放してくれなかった。
改札を出て歩いていると、同じ様に体育館に向かう人が彼を見て驚く者もいれば、ひそひそと話す人など様々で。
それだけ黒尾さんという人物が知られている人なんだと思い知った。
体育館に入るときに荷物チェックなどがあり手を離したが、そこを抜けるとまた「ボクが迷子になっちゃう」なんて茶目っ気たっぷりで言われて手を繋がれた。
そのままコートの真横まで行くと、そこでは木兎さんと赤葦さんがウォーミングアップをしていて、私たちに気づいて駆け寄ってきた。
「あーーー手ぇ繋いでるーーー!」
「木兎さん、カップルなら当たり前です」
「え?そうなの?え?カップル?」
「ちがっ!」
「そうで~す、羨ましいだろ?」
「くっ……悔しい!」
「木兎さん、そこは疑いましょうよ」
「え?嘘なの?」
「どっちでショー?」
といつもと変わらないノリで会話した後、私たちは自分の座席に向かう。
隣同士に腰を下ろしても手を繋いだままで、だんだんとそれが気にならなくなっていた。
しばらくして試合始まる。
それは今まで学校の授業で経験したバレーボールなんかじゃなく、テレビで目にする試合そのもの、いや、それ以上の迫力だった。
ボールのスピードも、床に叩きつけられる音、人ってあんなに飛べるんだとか、新たな発見だらけで試合に引き込まれていく。
すると繋いでいた手に力が入り、驚いて黒尾さんを見ようとしたら顔が近づいてきて耳元で「ボクの試合も見にきてね」と囁かれた。
それから試合だけじゃなく、隣の人の事を考えたりで頭がグルグルしていた。
2023/09/07