「どこ行くんだよ」
「恋人同士なんだからデートに決まってるデショ」
「はぁ?お前になんて聞いてねえよ、に聞いてるんだ」
「自分から振った相手に新しい恋人がいて面白くないだけでしょ?この通り貴方に未練もなにも無いから帰ってください」
「恋人なんて嘘だろ!お前はいつも手を繋ぎたがったんだから離れて歩いてるのは不自然だ。どうせ恋人役でも」
「あーもーごちゃごちゃうるせえな!男は引き際が肝心なんだよ!」
苛立ちを含んだ黒尾さんの声がして、その瞬間私の顎に長い指が添えられて上を向かされる。
と思ったら黒尾さんの顔が近づいて伏せられた目がセクシーだなと思ったら唇が重なった。
「んっ……」
そしてグイっと腰を抱かれて体が密着すると同時にバランスを失った私はすかさず彼の胸の辺りを掴んだ。
「…はっ……あっ……」
そして何度も角度を変え、出来た唇の間から舌が入り込んできた。
口腔内を探る様に動き回る舌に翻弄され、私の意識はそこに向かう。
「おい!」
元カレの声が現実に意識を戻す。
その声の後、唇が離れていくと同時に更に抱き寄せられたから必然的に彼の肩口に顔を隠すことが出来た。
きっと私の顔は茹でダコの様に真っ赤だと思う。
「あれ?まだいたんだ?」
「くっ!!!!二度とこねえよ!!!!」
「永遠にさようなら~。んじゃ、いこっか。あ、万が一にでもアイツがいたら困るから手は繋いでおこうね」
そういって黒尾さんは私の手を取り、恋人つなぎをしながら普通に話し出した。
話してる内容は今日の試合の事だと思うけど、私の頭の中はさっきのキスでいっぱい。
(普通に話をしてる黒尾さんは、なんとも思ってないのかな?)
(意識してるのは自分だけなのかな?)
手を繋いだまま電車に乗り込むと、先に乗っていた女子高生が色めき立つ。
確かに背は高いし顔も悪くない。
今だって手を繋いでる必要があるのか分からないし、何となく気が引けてしまう。
すると繋いでる手に力が込められて「聞いてる?」と黒尾さんが私の顔を覗き込んだ。
「き、きいて」「ないよね~」
そしてニヤリと笑って私の耳元に顔を寄せ「さっきのキスが忘れられない?」と囁かれた。
思わず距離を取りながら囁かれた耳を掌で隠す。
「あ~れ?図星かな~?」
「な、なにもあんなことしなくても」
「ああでもしなきゃ、信じなかったデショ、彼」
「でも」
「ああ、そっか。なんなら、もう一回する?」
「な、なに言って」
黒尾さんの顔が近づいてきて顔を背けたら耳元で「顔、真っ赤」と囁かれた。
「っ!!!?」
両手で顔を覆おうとするより先に、後頭部に手が添えられて彼の肩口に顔を埋める。
先ほどの女子高生たちが「きゃぁ!」と色めき立ったのが分かった。
2020/11/17