第三話

東京に来てから3ヵ月。

仕事にも慣れてきて忙しさは落ち着いてきたし、東京の職場での友人も何人か出来た。

彼女達も地方出身だったりで、会話をしてても楽しかった。

あれから隣の黒尾さんとは顔を合わせれば会話をするし、大人数で集まる時には誘ってくれたりする。

元カレが男友達と会うのも会社での飲み会も嫌がる人だったから、ちょっと楽しいと思ってる。

「それじゃあ、お疲れ様でーす」

今日は女子会と言う名の上司の愚痴り大会だった。

これはこれで楽しくて毎回参加していた。

気分良く電車に揺られ、駅からの道を歩く。

するとマンションの入り口に人影があった。

その陰からすると男性でマンションに入るか迷っていると、スマホを触っているらしくて顔が見えて来た。

「っ!!!!」

思わず立ち止まる。

するとその男性が顔をあげて私を見て顔をしかめた。

「こんな時間まで何やってたんだよ」

「……なんでここにいるの?」

「会いに来てやったに決まってるだろ。さっさと中に入れろよ」

「何のために?」

「はぁ?わざわざ会いに来た彼氏に向かってなんなんだよ」

「別れ話を切り出したのはそっちでしょ?」

「俺が忘れられなくて東京に来たんだろ?慰めてやるよ」

「結構です」

「は?ふざけ」「はいはいはい。もう夜遅いし出入口だからね」

ヒートアップしてきた所でフワフワした口調が割り込んできた。

その声は黒尾さんで、私の隣になって肩を抱かれた。

「なんだ、お前」

「人に名を問う時は自分からって知ってる?」

「時代劇かよ」

「現代っ子ですけど……キミ、誰?僕は黒尾鉄朗と言ってとお付き合いしてる者ですけど……で、誰?」

「は?なにいっ」

「仙台から来たストーカーです」

「おまっ!」

「ああ、それなら通報しないと」

「ふざけんな!」

「ボクはいたって見た目通りの真面目ですが?」

「どこがだよ!」

「おっと、失礼。それでは二人の愛の巣に行くので」

「なっ!待てよ!」

「待てよと言われて待つバレーボーラーはいません」

そういって黒尾さんは私の肩を抱いたまま鍵を取り出してエントランスへ。

オートロックだから元彼が入ろうとした瞬間、ドアが閉まった。

何か言ってるけど厚い扉がそれを遮った。

「すいません、ありがとうございました」

「たまたま通りがかっただけだけどね。元カレ?」

「はい」

「東京まで来るって追いかけて来たとか?」

「こっちに来る前に向こうから別れ話をされて別れたんですよ」

「ふーん……。あ、そうだ。連絡先交換しない?」

「え?」

「一応彼の前では彼氏ぶったし。あの様子だとまた来そうだしね」

何かあったら連絡してと言われて、彼と連絡先を交換して別れた。

2020/01/16