東京に来て一か月。
ゆっくりと生活用品を増やしつつ、仕事にも慣れて来た。
東京で最初の給料の高さに驚いたけど、東京の物価の高さにも驚いたけど一番驚いたのはランチのメニュー!
ワンコインで食べれるのもあるけど、千円出せばそれなりにお洒落な物が食べれる!
凄いよ東京!!!!
でも毎日リッチに食事が出来ないのが現実で。
花の金曜日といえど、自炊せねば。
(今買っておけば明日買い出ししなくて済むかな?)
近所のスーパーで籠をカートに入れたのは良いけど、カートを推し進めてるうちに持って帰る事を考えたら足が止まった。
「あれ?あれあれあれ~?チャンじゃないですか~」
にゅっと視界に現れたのは隣に住んでる黒尾さんだった。
相変わらずのツンツンヘアーだ。
「こ、こんばんは」
「一人暮らしなのにあれこれ買うんだねぇ。作り置きでもするのかな?」
「えーと、まあ……」
「でも、持って帰る事を考えたら戻しに行こうかな?って考えてたりする?」
「うっ……」
(この人、鋭い)
「おーい、黒尾ー!肉ってこれで……あれ?」
「黒尾さんの彼女ですか?」
「彼女がいるとか、天変地異?」
次から次へと現れたのは背の高い男性ばかり。
「って、さん?」
「え?月島君?」
「「「知り合い(ですか)?」」」
「いや~~~世間って案外狭いんだな」
お店を5人で出て、歩きながら事情を説明する。
私と月島君は中学の後輩で、顔を知ってる程度。
で、黒尾さんと月島君が高校時代のバレーボールでライバルだったとか。
また別の高校だったライバルである木兎さんに赤葦さん。
今では企業チームに所属していて、同じチームでは無いらしい。
そして木兎が「ヘイヘイヘーイ!夕飯作ってくれたら荷物持ちしてやるぜ!」というので遠慮していたら、黒尾さんが「んじゃ、遠慮なく洗剤や調味料選べよ」と言って私が使ってる物を選び、月島君と赤葦さんがメインで持ってくれている。
ひとまず私の家に荷物を置いて着替えをして、隣の部屋へ。
黒尾さんの部屋では既に乾きもので飲み始めていた。
「お?待ってたよ~ん」
のんびりとした黒尾さんの声がして案内の元、キッチンへ。
手洗いを済ませると、黒尾さんも手洗いをして隣にいる。
「何すればいい?」
「え?手伝ってくれるんですか?」
「そもそも誘ったの俺達だし?」
難しい事は出来ないけどね~と言いながら冷蔵庫から野菜を出してくれる。
今まで付き合った恋人たちは、誰一人として手伝った事が無かったので意外だった。
「こういう時は鍋!ちゃんこ鍋だろ!!!」と言ってた木兎さんの意見が半分だけ通って寄せ鍋に決まった。
「へいへいへーい!なんか手伝うけど?」
「よし!埼玉まで行って深谷ネギとってこーい!」
「よっしゃーーー!って、今から!?」
「冗談ですよ、木兎さん」
「本気でも良いですけど」
「冗談なの!?」
「うるっせ~な~。テーブルの上に鍋置ける場所作れ。後取り皿持ってけ!箸も!!」
いつもこんな風に騒がしいのかな?と思いつつも、不快な騒々しさではない。
考えてみると、こんな風に男性に囲まれて食事なんて言うのも初めてだった。
「さっきから何してんの?」
「鶏団子作ってます。軟骨が入ってるの好きなんで」
「へぇ……、チャン、器用だね」
「そうですか?料理が嫌いじゃないだけで、一人だったら作りませんよ」
「食うのが楽しみだ」と言って微笑んだ顔が、子供みたいだけど子供じゃない男性特有の可愛い顔をいしていた。
それから鍋をみんなで食べ、みんなの会話が面白くて、ついついお酒も進んでしまった。
「――――――ん……あれ?」
気が付くと部屋が暗くて、イビキが聞こえる。
どうやら私はソファで寝てしまったらしく、ブランケットが顔まで掛けられていた。
そこから顔を出して体を起こそうとしたら視界に顔が映りこんできた。
「っ!!!?」
ソファに寄りかかり天井を見る様に眠る黒尾さんがいた。
(ビックリした……)
ゆっくり体を起こしてソファに座る。
テーブルの上の鍋は無くなっていて、ビールの空き缶やらが乗っていた。
気を張ってた疲れと、美味しい夕飯に楽しい時間のおかげか気が緩んだらしい。
そしてテーブルの横には雑魚寝する彼らがいた。
「―――あれ?起きた?」
「あ、はい。片付けもせずに」
「良いって。それより」
「はい?」
その瞬間、彼の腕が伸びてきて、顔が超アップになった!
「男の部屋で寝こけたら襲われても文句言えないぞ?」
と、ニヤリとした顔で言われた。
そして前髪が持ち上げられて額にキスされた!
私は力の限り距離を取り、ブランケットを畳んで玄関へ。
「おおおおおぉぉぉ邪魔しましたぁ!!!!」
と言って一目散に部屋を出る。
そして自分の部屋に入って鍵を締め、そこにへなへなっと座り込んだ。
「……もう、なんなの、あの人」
今まで付き合ってきた彼氏たちと似ても似つかない彼に、私は振り回されている気がした。
けれどそれが不快に思わない事が、不思議でならなかった。
2019/02/25