ハイキュー!!

黒尾鉄朗

欲望だけのキスをして 前編

現代において『生粋の江戸っ子』と言うのは極僅からしい。

東京の人口は全体の10分の1であり、自分もその一人だ。

私の場合は地方から大学に通うために上京しているのであって、東京歴は1年半となる。

そして半年前に、彼氏が出来ました。

黒尾鉄朗君と言って、バレーボール部の人です。

高校の時は春高バレーでテレビにも映ったんだとか。

正直バレーボールは体育でしかやっていないので詳しくないです。

バレーの勉強をしようかと思ったのですが、鉄朗君に止められました。

だから練習を見に行った事もありません。

知っているの は良く一 緒にいるのが高校からの同級生である海信行君だという事くらい。

後、繋いだ手の温かさ、触れ合わせる唇の温度だろうか。

私は大学の女子寮にいるし、彼は実家だし、火曜以外は部活だし時間が無いからかもしれない。

最近ではそう思う様にしているのだが・・・触れ合うキス以上の事をしていない。

中学生の時からの親友に相談すれば「大事にされてる」と言われた。

けれど本当にそうなのだろうか?

練習が休みの火曜にもデートせず、バイトをしてるし。

避けられてるのかな?

でもメールや電話はマメにくれている。

高校時代に付き合った彼ともこんな状態で、結局自然消滅した。

「ってコトでヨロシク」

「おっけー!任せて!!」

2限が終わってお昼を食べようと食堂に行けば鉄朗君がいた。

私の友達であると一緒に。

「あ、。おつかれ」

ー!一緒にお昼たべよ♪」

「あ、うん」

「そうだ、今度の土って、予定無い?」

「え?うん、無いけど」

「んじゃ、俺とデートしよう」

「え?バレーは?」

「大会終わったからお疲れの休みなんだよね」

「わかった」

「じゃあ、時間とかはまたな」

そして鉄朗君は私の頭を撫でて食堂を出て行った。

私もとご飯を食べ、午後の講義に向かった。



土曜日になり、最寄りの駅に向かう。

鉄朗君と会う時は、いつもここまで来てくれる。

けれど今日はどうも荷物が大きいみたいだ。

「おはよう。んじゃ、行こうか」

「えっと・・・今日はどこに?」

「ちょっと遠出しよう」

そう言って電車に乗り込み、大きな駅に向かう。

一度改札を出て、飲み物などを買って駅に戻る。

すると鉄朗さんが切符を差し出してきた。

切符に書かれていたのは『伊豆』の文字。

「え?伊豆?」

「はいはい、行くよー」

乗り込んだ電車。

「本来勧めるのは通路側だけど、今日は特別」

そして座った窓際の席。

見慣れた景色から遠ざかり、トンネルを抜けて行く。

しばらくすれば一面に海が見えて来た。

「凄い!」

どちらかと言えば田舎の山育ちの自分からすると海は凄いになる。

キラキラする水面。

「気に入った?」

「うん・・・」

そして興奮気味で駅に着き、鉄朗君が荷物をロッカーに入れる。

それから二人で観光スポットを次々に巡って行った。

楽しい時間はあっという間で、気付けば夕方になろうとしていた。

「あ!門限!!」

すると鉄朗君が繋いだ手に力をこめた。

「帰さないって言ったら?」

「え?」

「このまま一緒に泊まって行かない?」

「え?でも」

「外泊許可は取ってあるし、泊まる準備もしてある」

「許可?準備?」

に頼んでおいたから。だから、このまま俺と一緒に泊まってよ」

「でも・・・」

鉄朗君はそれ以上何も言わなかった。

けれど繋がれた手は離される様子も無かった。

だから私も手に力を入れて、静かに頷いた。

すると鉄朗君が安堵の息を付いたのが分かった。

そして手が一瞬離れて、恋人繋ぎになった。

駅で荷物を取って再び電車に乗り込む。

単線の電車が懐かしく感じた。

それから送迎バスで宿へと向かう。

その間も手が離される事は無かった。

宿に着いて手続きをして案内されたのは離れだった。

ひっそりと、静かな空間。

「凄い・・・」

私は惹きつけられる様に部屋を進んでいく。

一番奥にあるサッシとも違う日本家屋らしいガラス戸を開けると、一面に広がる日本庭園。

邪魔にならない程度にあるオレンジ色に点るライトが幽玄な世界観を醸し出している。

「気に入った?」

現実に引き戻す鉄朗君の声。

気付かないうちに背後に立ち、窓枠に手を置いて一緒に庭園を覗き込んでいた。

「凄い・・・綺麗・・・」

「とりあえず風呂行かない?んで、飯食ってから、ゆっくりしよう」

「あ、うん」

持ってきたバックからあれこれ荷物を取り出す。

そこから出て来たのは可愛らしい袋だった。

「お泊り道具一式が入ってるって。後、そこにある浴衣持っていけば大丈夫だと思うよ」

受け取った袋の中身を確認すると、クレンジングから何から入っている。

「っ!!!!!?」

「どうした?なんか足りない?」

「いえ、あの・・・下着まで・・・」

「ああ、それ。に頼んで買ってきて貰ったんだよね。さて、とりあえず大浴場行こうぜ」

「う、うん」

「あ、ちゃんと丹前も持てよ。風邪ひいたら困るし」

そして二人で大浴場に向かう。

入り口で別れ、脱衣所に。

持ってきた袋から中身を出していく。

「う~~~」

真新しい下着は、私の好みにバッチリだ。

一年半とはいえ、良く一緒にいるちゃんだからこそのチョイスだろう。

いやいやいや、ちょっと待って!泊まるんだよね!?

もしかしてもしかしなくても・・・・・・いや、違うか。

なんだかよく分からないまま、大きなお風呂と露天風呂を堪能した。

堪能してから気付く。

「夕食の時間!?」

とりあえず下着と浴衣を着て基礎化粧をし、濡れた髪をアップに纏めて部屋に戻る。

部屋のドアは鍵が掛かっていなかったので、ゆっくり開けてみた。

すると奥にあった椅子に深く腰掛ける鉄朗君がいた。

髪は下りてるし、天井を見上げ静かに手を組んで目を閉じている。

疲れて眠ってしまったのだろうか?

音を立てないように静かに近付く。

「てつろーくん?」

小さな声で呼んでみる。

ゆっくりと長いまつ毛が上がり、黒い瞳が私を捉えた。



すっと腕が上がって鉄朗君の手が私の首の辺りに。

グッと力が入ったと思ったら、キスされていた。

「んっ・・・」

そのキスはいつもと違う、強引なキスだった。

「失礼します。お食事の用意をしますね」

ドアがノックされ、仲居さんが数人入って来た。

私は鉄朗君から離れ、そちらに向かう。

私の後を追う様に鉄朗君も立ち上がり、運ばれてくる料理を「うまそー」と見ていた。

席に着きながらも、私の胸に甘い予感がしていた。


2017/07/14