ここから始まる恋物語 第1話



 
私の名前は

普通に学校に通い、大学まで行かせて貰い、普通に就職。

就職先は野球の球団と一風変わった感じがするけど、事務員だから普通の会社と同じ。

決められた時間にきて、決められた仕事をして、決められた時間に退社する。

だから野球選手との関わりなんて何も無い。

むしろ野球を知らない。

忘年会だ祝賀会だは営業の仕事で、私が知ってるのはいつどこで行われ、おいくら万円するかって事くらいだ。

趣味は映画。

洋画も邦画も何でも気になれば観る。

専らの悩みは家にシアタールームを作りたいと思ってる事。

お金も溜まって来たし、あれこれパンフレットも集めている。

音響、スクリーンに再生する為の機械諸々の。

狭いワンルームをどうやって改装しようか悩んでる。

君、ちょっと」

名前を呼ばれて顔を上げると、総務部長の隣に営業部の金田課長がいた。

私は返事をして部長机の前に行き彼を見た。

すると部長は苦笑いをして金田課長を促す。

「今夜予定が何かあればキャンセルして欲しい」

「はぁ・・・残業ですか?」

「ちょっとややこしい案件を頼みたい」

二人は私を苦笑いして見ていた。


終業時間を過ぎ、私は金田課長の営業車に乗せられ焼き肉店に連れて来られた。

店員に人数を聞かれるが、待ち合わせと言う事で奥へ案内される。

「あー金田さん!と・・・彼女っすか?」

小上がりの座敷は広い部屋になっていて、体格の良い男性が何人もいた。

その彼らがうちの球団の選手と言うのは名前を聞いていて理解した。

「御幸はどこだ?」

「あ、はい?」

「ちょっとこっちへ」

端の席を促されてそこに座ると、御幸と呼ばれた眼鏡の男性が私の向かい側に。

座る際に会釈されたので、私も頭を軽く下げた。

まず話より食べようという事になってサワーとお肉を注文。

追加でムンチサラダを頼んだら、そだけでお腹がいっぱいになった。

「腹も満たされたし、話に入ろうか」

そう切り出したのは私の隣に座る金田課長。

すると向かいに座っていた御幸と言う人も姿勢を正した。

「御幸にはもう話をしてあるんだが」

切り出された内容は、かなりシビアなものだった。

彼は入団8年目の選手で、現在1軍の正捕手らしい。

このルックスで人気のある彼に黒い噂が。

その内容としては彼がある有名な夫のいるアナウンサーと付き合っていると言うもので。

これについては事実無根かつ、球団としては有力選手の黒話題は避けたい。

「だからに、御幸の彼女のフリをしてもらいたい」

「は?え?」

目の前の御幸選手は背中にある柱に寄りかかり片膝を立て、その上に片腕を乗せてまったりしている。

いやいやいや。

だって自分の事だよね?

今日、初対面ですよね?

彼女いますよね?

私なんて一般人じゃなくても綺麗だったり可愛い子の知り合いいますよね?

「まあフリって言ってもバカップルしろって事じゃないから。御幸に飯奢って貰ってちょっと寄り道してくれ」

「えー!?」

「飯代浮くぞー?(ニヤニヤ)」

「くっ・・・」

金子課長は私の趣味を知っている。

入社して初めての飲み会で飲まされて、あれこれ喋った黒歴史があるのだ。

「そもそも御幸・・・選手は良いんですか?」

正直、こんな条件で。

好きでも無い女と夕飯食べるというか、奢るのって。

あ、経費?

「俺の事だしさんに話が行く前に打ち合わせしてるしね」

あっさりしてるな・・・・・・女性慣れしてるんだろうな。

「とりあえず毎日じゃないにしても夕飯ご馳走するよ。何が好き?」

は定食」

「ぷっ・・・マジ?」

「ちょっ!金田課長!?ご飯と味噌汁が好きなんです」

を知るなら飲ませて潰せ。面白いぞ?」

「そこまで知る必要ないじゃないですか」

「機会があれば?」

何だか変な事に巻き込まれたっぽいです。


2017/07/26