黒子のバスケ

黄瀬涼太

僕の涙 前編

バスケを始めた切欠で、憧れてた人。

でも憧れだけじゃ越えられない壁。

勝つためにはその思いを捨てないと勝てない。

「憧れるのはもう・・・やめる」

それでも勝てなかったのは、

俺がまだ弱いから。



マンションのエントランスでロックを外し、エレベターのボタンを押す。

閉まりかけた自動ドアが再び開いた。

「あれ?涼太くん?」

声の主を確認しようと首を向ける。

そこには隣に住んでるさんだった。

「今日は試合?」

「そうッスよ。さんは出かけてたんスか?」

「うん、映画見てきた」

「女友達とッスよね」

「余計な事は言わないの!」

「はははは・・・って、顔に何か付いてる?」

「今日って両親いないんでしょ?ご飯一緒に食べない?」

「え?」

「シャワー浴びておいでよ。その間に作ってるからさ」

「りょーかいっす」




俺は自分の部屋のカギを開け、荷物を部屋に放り込む。

リビングを突っ切り、ジャージを脱ぎ捨てた。

コックを捻ると熱い湯が頭からかかる。

こっちの気分もおかまいなしの水が排水溝に吸い込まれる様を見ていた。

【この悔しさも一緒に流れていけばいいのに】

バカな発想に思わず苦笑いをした。

こんな事をしていても仕方ない。

せっかくの誘いなんだからと頭を切り替えた。




家のカギを締め、隣の家のインターフォンを押す。

「どうぞ。あと少しで出来るから待っててね」

俺をリビングに通した後、キッチンに向かう彼女。

さんとは子供の頃の付き合いだ。

3つ上の彼女は大学生。

親同士が仲が良いのもあって、お互いの家を行き来することも多い。

勝手知ったるでテレビの電源を入れた。

その途端に差し出されたグラス。

「スポドリ」

「サンキュー」

再びリビングへ戻る彼女の背を見送り、テレビへと視線を移す。

画面の中では面白くもないギャグが繰り広げられている。

「ふう・・・・・・」

目を閉じてソファに深く腰掛けた。

今 日の出来事がどうしても頭から離れない。




悔しくて悔しくて悔しくて・・・・・・




フワッと頭が撫でられた。

目を開けると心配そうな顔をしたさんがいた。

「ご飯出来たけど・・・食べれる?」

「・・・・・・何で俺を誘ったんスか?」

「心配だったから」

俺は彼女の腕を引き、ソファに彼女を押し倒す。

彼女は両目を見開き、俺を見ていた。

「手負いの獣を家に入れるなんて隙がありすぎじゃないッスか?」

「・・・・・・」

「俺の事、子ども扱いしすぎじゃない?」

「子供だなんて思ってないよ」

「だったら慰めてよ」

「・・・ここじゃイヤ」

俺は彼女を抱き上げ、さんの部屋へと向かった。


2015/01/28