第一話

「まいったな・・・・・・」

日付が変わろうとしている深夜と言う時間帯に女一人でファミレスにいる私。

普段ならもう一人寂しくベッドインしているけど、今日は違った。

フライデーナイトを満喫して、おんぼろアパートに戻ると事件が起きていた。

満員御礼で入れなかった寮の代わりに借りた激安アパートの水道管が破裂したらしい。

なので風呂どころかトイレも使えない状態。

とりあえず着替えなど詰めて急いで銭湯に向かう。

銭湯から出ると日付変更間際で友達に連絡を取る事も出来ず、新幹線が無いと実家にも帰れない。

なので貧乏学生が行けるのはファミレスくらいで。

ここで夜を明かそう!と考えた。

窓際に座りボーッとしていると、テーブルに置いたスマホが振動する。

とりあえず財布だけポケットに入れて出入り口に向かう。

「はい」

「ヒャハハ!」

と目の前に現れた男が笑った。

顔を上げると階段を上がってきた倉持がきた。

「こんな時間に女一人で何してんだ?」

彼は大学の学部が同じで良く話す男だ。

連絡先は知ってるけど彼は野球部で遊んだりする事は無い。

けれど学祭などで意気投合し、たまにご飯を食べに行ったりしている人物だ。

彼に事のあらましを話す。

「一人でココにいる気か?」

「とりあえず今夜は?」

「・・・・・・・・」

「倉持?」

「・・・・・・俺んトコ来るか?」

「え?」

「つっても、実家暮らししてっから俺一人じゃねえけど」

「実家ってどこ?」

「千葉。○○線で1本。つーか、もうすぐ終電だから来るなら即決しろよ」

男友達の実家か……。

飲み食いした後のドリンクバーで朝まで過ごせる自信は正直言ってない。

それならば倉持のご両親が起きる前に出て行けば問題無いのでは?

「行く」

決めたら行動あるのみ。

店に戻って荷物を持ち、会計を済ませる。

「荷物貸せ。走るぞ」

言葉に甘えて荷物を渡して彼の後に続いて走る。

「遅え!間に合わねえから我慢しろよ」

そう言って私の手を掴んで走る。

誰かが彼は俊足だと言っていたけど、本当に早かった。

駅の階段を駆け上がって終電に乗り込むと、言葉が出ない程ぜえぜえしていた。

「体力ねえな」

「う、うるさい・・・」

息が上がっている自分に対し、倉持は息が乱れてもいない。

と言うか、お酒を飲んだのを思いだしたら気持ち悪くなってきた。

「おい・・・なっ!?」

「うっ・・・」

気持ち悪くて下を向いたら倉持の肩の辺りに額を乗せた。

すると彼の手が背にまわり、背中を上下にさすった。

「もうちょい我慢しろよ・・・」

「うん・・・」

なんだか彼の手が温かくて、気持ちよくて目を閉じた。

駅に着いてからも彼が荷物を持ってくれて、見慣れない道を歩く。

「ここな」

一軒家の前で止まり、口の前で人差し指を立てる彼に続く。

カラカラカラとサッシを開けて中に入る。

一応小さな声でお邪魔しますと言った。

「階段上がって一番右奥の部屋。先行ってろ」

と言われて電気の点けられた階段を荷物をもって上がる。

言われた通りの部屋のドアを開け、小さな声で失礼しまーすと中に入る。

シンプルな和室にベッドがあり、勉強机がある。

壁には青い7番のユニフォームを着た人と、クリムゾンレッドの7番のポスターが貼られていた。

「よいしょっと・・・。俺は風呂行ってくるからベッドで寝てて良いぞ」

「え?倉持はどこで寝るの?」

「客間なんてねえからココだけど。下で寝るからベッド使って寝てろ、酔っ払い」

「うっ・・・」

「雑魚寝には慣れてるしな、ヒャハハ」

そう言って彼はタンスから着替えを出し、部屋を出て行った。

とはいえ、押しかけたのは自分だし・・・

彼が持ってきた布団を広げる。

けれど敷布団は無くて掛け布団だけの様だ。

ベッドの上にあったクッションを借り、ベッドの脇に寝転がる。

下は畳とはいえ、やっぱり固い。

私は上掛けにくるまる様にして横になった。

本当なら着替えたいしブラも外したい、って、さすがにそれは出来ない。

布団に包まりながらあれこれ考える。

水道はいつ直るのか?それまでどこに身を寄せるか?

けれどアルコールが入り走った脳はあまり動いてくれない。

目を閉じたままゴロゴロしていると、ドアが静かに開いた。

「ベッド使えっつったろ」

呆れ気味の声がして、冷たい空気が流れ込んだ。

と思ったら体が浮き上がる。

「あ、クソ・・・」

体が傾いて倉持の体と密着する。

風呂上がりだから、凄く良い匂いがする。

ついでに足で布団を捲っているのか、体がグラグラする。

あー・・・あったかい。

「よいしょっと・・・・・・・って、おい」

優しくベッドに降ろされたけど、この温もりを離したく無かった。

だから彼の首に抱き着く。

「いや・・・ほんとマジで離せ」

そう言いながらも起こさないようにしてるのか、強引に抜け出そうとし ていないらしい。

口は悪いのに本当は凄く優しいのを知っている。

だから私は手を離さないまま、眠りに落ちた。


2017/09/12

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