うたの☆プリンスさまっ♪

黒崎蘭丸

解き放つエゴとタブー

黒崎蘭丸との付き合いは、結構長い。

彼がまだアイドルになる前からなのだから当たり前と言えばそうなんだけど。

私達の関係を表す言葉「腐れ縁」「セフレ」そんな所だろうか。

出会いは彼のバンドが出ていたライブハウス。

彼は同じバンドの女の子から距離を取る為、私はファンをしていたバンドマンに近付く為だった。

けれどそんな関係が案外上手く行ってしまったという感じだ。

だからと言って「好きだ」の「愛してる」と言った事も言われた事も無い。

基本的に一匹狼だった蘭丸が、仕事とはいえユニットを組む事になった。

この頃、何となく彼が離れていった気がした。

この関係にも終止符が打たれると覚悟もした。

ところが・・・・・・彼が急に変わった。

うちに来てご飯を作ってたり、抱き方も優しくなった。

ぬるま湯に浸かっている様な関係が、なんだかこぞばゆい。

けれど現実はそう甘くない。

だからベッドの上でゴロゴロして雑誌を見てる彼に声を掛けた。

「あ、悪いけどここの合鍵、返してくれる?」

「はぁ!?」

ガバっと勢いよく彼が起き上がった。

目をまん丸にして驚いてる彼を見るなんて初めてかもしれない。

そんな彼から視線を外し、洗ったばかりの髪をタオルドライする。

「ちょっと待て!どういう意味だ!?」

「え?そのままの意味だけど。2週間後にここ、引き払うから。その間に来るか分からないでしょ?」

「2週間!?どこに引っ越すんだ?」

「え?大阪だけど?」

「聞いてねえぞ!!!」

「今言ったじゃん」

「そういう事じゃねえ!」

「何怒ってるのよ・・・。今日、辞令が出たんだから」

「辞令?」

「そう。大阪営業所に異動。向こうで昇進」

「・・・・・・聞いてねえぞ、マジで」

「だから今言ってるじゃん。とにかく鍵」

「・・・まだ来るから良いだろ。それより・・・よっと」

「うわっ!!」

後ろに引っ張られてベッドに押し倒される。

そして蘭丸の体が密着し、私を見下ろす。

顔が近付いてきて唇が重ね合わされる。

その後はいつも通り、快楽に支配される時間が訪れた。



異変は翌日から起きる。

あまりの変化に夕飯を食べながら行儀が悪いけど話題を切り出した。

「ねえ、なんなの?」

「何が?」

「毎日来られる程暇じゃないよね?」

「当たり前だろ」

「何で自宅から行かないの?」

「迷惑なのかよ」

「うん。荷造できない」

「行かなきゃいいだろ」

「社会人の発言じゃないよね?」

「おれの所に来ればいいだろ」

「新幹線で通勤なんて出来る訳ないでしょ?」

「仕事辞めればいいだろ」

「はぁ!?老後まで養える蓄え無いわよ」

「おれがいるだろ!!」

「いるから何なのよ」

「結婚しようって言ってんだよ」

「いや、無理だから」

「即答かよ!!!!」

「人気のアイドル様が何を言ってるんだか」

「アイドルじゃなくなれば結婚するのか?」

「物の例えでしょ?」

「行かせたくないって言ってんだよ」

「それは無理だって言ってるじゃない」

「なら大阪の住所教えろ」

「大阪に来てまで私に会いたい?」

「結婚しようって言ってるんだから当たり前じゃないのか?」

「ちょっと待って。そもそも、そういう関係じゃないよね?」

「は?」

「恋人じゃないでしょ」

「・・・・・・」

「な、何で驚いてるのよ」

「まさかとは思うけど、おれが好きでも無いヤツと付き合ってると思ってたのか?」

「だって最初はバンドの子から・・・」

「それだけで長い時間一緒にいられないだろ!!」

「そんな事言ったって!!!!」

「待て・・・いや、おれが悪い。ちゃんと言葉にしなかったしな」

すると蘭丸は座を改めた。

「好きだ。だから結婚してくれ」

「結婚は・・・」

「何だよ」

「だから事務所からOK出る訳ないでしょ?それに私だって気持ちの整理ってものが」

「それなら半年後には解決してる」

「半年?」

「シャイニング事務からレーベル会社の設立があって、そこにミュージシャンとして移籍する」

「え?」

「親父・・・社長にもそれを機に結婚するって話てあるしな」

「それって凄いんじゃ」

「だから半年以内で気持ちの整理しろよ」

そう言いながら蘭丸は私の左手を取り、薬指にダイヤの指輪を嵌めた。


2017/08/21