うたの☆プリンスさまっ♪

黒崎蘭丸

そいつに触るな。

借金も徐々に返済が出来ている。

新人作曲家の影響もあり、事務所は良い方へと傾いているだろう。

自分に余裕が出来てくると、不思議と周りが見えてくる。

「アイドルに恋愛はノンノン」

そう言われていても感情はコントロール出来るもんじゃねえ。

自分にも付き合って半年のオンナがいる。

TAC(ティーエーシー)企画という事務所のマネージャー、だ。

最近では彼女が付いた俳優は必ずヒットする、なんて言われてもいる。

本人は「その人が努力した結果」と謙遜しているが。

「ねえ、ランラン。TACのさんがウチ(シャイニング事務所)にくるって知ってる?」

控室でドラマの台本を確認していると、いきなり控室にきた嶺二が開口一番にそう言った。

「はぁ?」

「あれ?ランラン聞いてないんだ。じゃあ、デマかな」

顎に手を当てて考え込みながらブツブツと喋っている。

そもそも何でおれに?

「ん?ああ、ランランと彼女が付き合ってるのは知ってるよ」

嶺ちゃんに隠し事は出来ないんだからね!とか胸張って威張っている。

「な~んて。まあ、ランラン見てるとわかるよ」

「は?」

「俺の女に手を出すなーーー!!!!!ってオーラとビーム出てるから」

「出してねえよ!」

「まあ、いいや。んじゃ、まったねん♪」

騒ぐだけ騒いで出て行きやがった・・・・・ず・

つーか、そんなビーム出してるか?

嶺二の勘が鋭いのもあるだろうが・・・気をつけねえとな。

真相を確かめるべく彼女にラインを入れる。

今彼女は撮影で地方にいるから会って話す事が出来ない。

きっと返事も早くて夜だろう。

案の定、帰って来た返事は『初耳です』だった。




事態が動いたのはそれから4日後の事だった。

ニュースの見出しに『俳優事務所TAC企画倒産』の文字だった。

どうやら役員が横領していたらしく、再建出来ないらしい。

それを見て彼女へ連絡しようにも虚しく流れてくる電源が入っていないアナウンス。

仕事が終わって彼女の家に向かえば、見覚えのある報道陣が何人かいた。

仕方なく自分の家へと帰った。

それから連絡が取れないまま数日。

台本を取りに事務所へ行くと、事務員から「社長室に来て欲しいそうです」と言われた。

社長室のドアをノックすると、真面目な声で「入れ」と聞こえる。

「親父、呼んだ・・・か」

親父の向かいに座っているのは音信不通だった彼女、だった。

隣に座る様促され、それに従う。

「彼女の事は知ってるな」

「はい」

「ならば恋人であるお前が説得しろ」

「はぁ!?」

「実はカノジョをスカウトしてまーす!ですが首をコクコクと縦に振ってくれまセーン!!」

ガバっと立ち上がった親父は、いつも通りのアクションをし出した。

「ミーはミスの力が欲しいのデッスゥ」

隣で彼女が苦笑いしている。

「ミスター.クロサキ!カノジョと交際を認めて欲しければカノジョを説得してチョーダイ!」

「え?」

「ミーは何でも知ってマース。早く首を縦に振らせてここにハンコをポポポポーンと押しちゃってヨ!」

彼女にはシャイニング事務の社員用の寮が用意され、新人のマネージャーを任せたい。

そして「QUARTET NIGHT」のメインマネージャーになって欲しいと。

「この四人は個性が強すぎマース。普通の人ならノンノン。

付き合ってる事はトップシークレットデッス。後は頼んだぞ、黒崎」

そう言って社長室を出て行った。

その途端、日向さんの叫び声が聞こえたのは幻聴だと思おう。

とにかく彼女を抱きしめた。

「心配した・・・」

「ごめんなさい」

撮影の合間にTACの社長から連絡が入り、 急遽撮影が中断。

急いで家に戻って荷物を纏め、ホテルに泊まっていたらしい。

そして携帯は会社名義だった為、ストップしてしまった。

数日経った時、日向さんがホテルに来たんだとか。

「で?引き受けんだろ?」

「断るつもりだよ」

「はぁ!?」

「なんというか・・・・・・公私混同しそうだし」

「そんなん・・・っ」

「おっはよ~ん!嶺ちゃん参上!!!!」

「もっと静かに入りなよ、レイジ」

「くだらん」

バンっと言う音と共に現れたのは嶺二、アイ、カミュだった。

「で、話はついたのか?」

「さっさと終わらせて次の仕事に行きたいんだけど」

ちゃんがマネなんて嶺ちゃんハッピー♪」

次々と発せられる言葉。

オレもも苦笑いしか出ない。

カミュが溜息をついたと思ったら「小娘」と言ってに顔を近づける。

「お、おい!カミュ!!」

何かを囁き、「ふんっ」と顔を離すと同時にが「ひゃっ!?」と声を上げる。

オレは急いでを抱き寄せ、カミュを睨んだ。

「おーおー見せつけてくれちゃって!嶺ちゃんの方が照れちゃう」

「バカバカしい」

「男の嫉妬は見苦しいぞ」

「うるせえ!」

「それで結論出たの?」

「・・・・・・お引き受けいたします」

「あ、そう。それじゃあ、仕事に戻るよ。連絡先はランマルに聞いて」

「マジで!?やったー♪じゃあ、嶺ちゃんもお仕事してきマッスル!」

「後は黒崎に聞け」

「あ、はい。お疲れ様でした」

三人がそそくさと退室していく。

は溜息をついた。

「何を言われた?」

「ん?黒崎との交際を公言されたくなければ受けろ。バカ(黒崎)の為にもなって」

「はぁ!?バカってオレか!」

あの野郎・・・・・・知ってやがったのか。

そもそも嶺二が知ってるんだから当たり前か。

なんにせよ、やっと目の届くところにいてくれる事になる。

彼女を抱き寄せ、ぎゅっと力を入れる。

「とりあえず、良かったな」

「そうだね・・・」

これで親父公認だしな。

迂闊にコイツに手を出すヤツも減るだろう。

本当なら部屋に閉じ込めてオレだけのであってほしいけどな。

前よりマシになったと、今は喜んでおこう。


2016/8/3