うたの☆プリンスさまっ♪
どこにもいかないで
ボクと言う存在が人の手により造られたのは知っていた。
ボクと言う存在が誰かの肩代わりでしかないと思い始めた。
ボクと言う存在が誰かに望まれていたいと切に願った。
ボクと言う存在がキミにとって唯一の存在で有りたいと熱望した。
「・・・・・・い、・・・藍?」
ふと目を開けると自分を心配そうにのぞき込むがいた。
「・・・何?」
「体調悪いの?うなされてたけど」
眠らないで良い体を心配する彼女。
の頬へ自分の手を添える。
「ん?」
少し鼻に掛かった優しい声・・・
彼女に恋愛感情を抱き、彼女もボクを思ってくれていた。
想いを通わせるうちに起きたボクの体の異常。
博士とも話し合い、彼女に全てを話した。
それでもボクを「人」として扱う彼女。
「人より人らしい藍を人扱いして何が悪いの?」
眉を寄せ、何を言ってるの?って顔でボクを見るのが嬉しかった。
それからも二人、時間(とき)を重ねて来た。
ボクが仕事で遅くなり、家に帰っても迎えが無かった。
そっと部屋に足を踏み入れれば、電話をしている彼女の姿。
「・・・うん、だから心配しないで。お見合いは断ってください」
電話を切ってボクに気付いた彼女が苦笑いした。
彼女は人であり、「今」が永遠ではないのだと思い知らされた。
「結婚」するのは問題が無い。
もOKするだろう。
問題はその後で、子孫を残すと言う人としての当たり前がボクには出来ない。
博士に相談してボクの本体である人物の遺伝子を使うと言う方法を提案された。
「私は藍を想っているのであって、他の人の子を欲しいと思わない。
だから永遠に二人きりでいたいの」
そう断言した時の彼女の流した涙をボクは永遠に忘れる事が無いだろう。
それから籍を入れ、永遠に続く二人きりの生活が始まった。
最初の10年近くは仕事をするだけ仕事をした。
彼女が年老いても問題無い程の蓄えをした。
芸能界を引退し、地方へと移り住む。
転々と住まいを変えなくて済む様に、外装を変える案が出た。
一緒に外を歩けるように話を進めていた矢先、彼女の病気が発覚した。
若くして彼女を蝕んだ病は進行が早く、余命1か月と宣告される。
「博士にお願いがあるんだけど」
ボクの話を聞いて、博士は涙を流していた。
「分かった。藍の思う通りにしよう」
それから急いで病院に戻り、彼女の退院手続きをする。
家に戻って荷物を纏め、二人で旅に出た。
北海道のロッジ。
二人で体を寄り添わせ、静かに降り積もる雪を眺めていた。
「綺麗・・・」
「そうだね。音が無いのが凄いと思うよ」
「ねえ・・・歌って?」
「歌?」
「そう、歌。あれが良いな。『 winter blossom』」
あの曲はを想って書いた歌。
雪も降っているし、ちょうどいいかもしれない。
「雪がまるで~・・・」
アカペラで、彼女へ響くように歌った。
途中で彼女の体がガクンとなり、倒れこんでくる。
その体を抱きしめボクは歌い続けた。
歌い終わる頃、彼女の体の全てが止まっていた。
「・・・永遠にアイシテル」
彼女に最後のキスを落とし、ボクは体の中に内蔵された機能停止ボタンを押す。
ドコニモイカナイデ
イッショニイクカラ
2016/7/26