銀河英雄伝説
die neue these
手に余る誘惑
首都星ハイネセンにおいて、親友であり悪友の香織が結婚する事になった。
香織とは高校時代からの仲で、社会人になってから暇さえあれば一緒に飲み歩いていた。
お互いに容姿が良くも無いけど悪くもないからか、遊ぶ相手に苦労しなかった。
「親がさ、煩いのとかで…ね」
故人はこれを『年貢の納め時』と言ったらしいが、友人も見合いして結婚する事に。
最近よく聞くヤン・ウェンリーの艦隊のなんちゃらって軍隊の人らしい。
正直言って、政治も戦争もどうでもいい。
買っても負けても誰が議長だろうが私の生活はここで、働いて遊んで死ぬだけなんだ。
同じ意見だった友人も、今は真っ白なドレスに身を包んで微笑んでいる。
幸せか不幸せか分からない式が終わって二次会へと移動し、とりあえず飲んだ。
今日はハイネセンに泊まって、明日エル・ファシルに戻ればいい。
「隣、良いですか?」
「……どうぞ」
声で隣に座ったのは声で男性だとわかる。
けれど顔はまだ見ていない。
「貴方は新婦のご友人ですか?」
「はい」
「恋人は?」
「いきなりなのね。いたらどうします?」
「私が恋人だったらこの様な場で絶対に一人にさせませんよ。なのでいてもいなくても口説きますね」
「あら、口説いてくださるの?」
煽っていたグラスを置いて隣を見る。
少し癖のある髪の間から、目が細められたのが分かった。
獲物を仕留めにかかる野獣の様に。
その男の手がグラスの縁をなぞる私の指を持ち上げキス……どころか噛みついてきた。
噛みつくと言っても歯型が残るようなものではなくて、甘噛み程度。
そして生温かな舌が噛まれた歯の後をゆっくりなぞる。
遊び慣れたその手管に乗るように、私も自分の唇をゆっくり舐める。
そして男は私の手を取り「行きましょうか」と立ち上がった。
男性にエスコートされて店を出る。
エレベーターに乗り込むと腰を攫われて唇が重なる。
行も出来ない程のキスなのに、強引過ぎず、優しすぎないキスに酔いしれる。
彼の温もりを覚えていると、チンと小さな小気味いい音がしてエレベーターが停まった。
腰を抱かれたままエスコートされ、ある部屋の前に立つ。
彼はカードキーをかざしてドアを開けてくれる。
完璧なエスコートに遊び慣れてる感は否めないけど、気分が良いんだから仕方ない。
部屋の中へ足を踏み入れるとすぐ浮遊感に襲われ、抱きかかえられながら部屋の奥へと進んでいく。
広い室内に見合うキングサイズのベッドにゆっくり降ろされる。
彼はゆっくりと私に覆いかぶさる様にベッドに上がってきて、長い手をヘッドボードのボタンに触れると部屋の明かりが薄暗い物に変わった。
「シャワーを」
「後で一緒に浴びればいい」
獣を追い詰める様に細められた瞳が私を捉えて離さない。
その瞳が物凄くセクシーで、私の感情が高ぶる一方だ。
見つめるだけで何も行動しない彼に焦れて、彼の首に手を添えて自分の方へ引き寄せる。
もう少しで唇が触れ合いそうになった時、その唇が「名前は?」と動いた。
「」
「俺はワルターだ」
そう告げた唇が重なり合った。
熱い唇が、大きな手が、私の体の隅々を撫でる度に上がる体温。
口からは甘い吐息しか出てこない。
「気持ちよさそうだ」
耳元で囁かれた瞬間に長い指が私のナカに入り込んでくると、意思とは関係なく体が慄いた。
それを面白そうに目を細めて見られているのが悔しくて力をこめて彼の指を締め付け彼の首に腕を巻き付ける。
「……早く」
「困ったお嬢さんだ」
小さく笑った彼の体が一度離れ、準備を施してすぐ私の両足を抱え込んで体を入れて来た。
だから今度は彼の腰に足を絡めて先を促す。
ゆっくりと彼が入り込んできて、ゆっくりと体が密着する。
それだけでもイっちゃいそうだった。
と、此処までは良い。
正直、この先は快感が強すぎて意識を失った。
目が覚めると彼の腕の中にいた。
改めて彼の引き締まった体を見る。
花婿同様軍服を着てたから軍人なのは分かったけど、こんな広い部屋を使えるんだから階級は高いのかもしれない。
私はとりあえずベッドを抜け出してシャワーを浴びに行った。
バスローブを拝借して部屋に戻ると、ワルターはベッドに横になったまま私を見た。
「1人で浴びたの?一緒に浴びようと思ってたのに」
「一緒に入ったら帰れなくなるもの」
バスローブを肩から落とし、拾い上げた下着を身に着けていく。
すると裸体のままの彼が私を抱き寄せた。
「帰したくないな」
「ふふ……ありがとう」
「仕方ないから1人で浴びるとしよう」
するりと体を翻してバスルームに向かう彼。
引き留めてもくれないんだから、つれない人だ。
だから私は唇にルージュをひいてホテルのメモスタンドにキスを落とす。
携帯の番号を記載して、部屋を出た。
2022.06.02