テニスの王子様
縺れた愛を結ぶ
ニューヨークでの仕事を終え、予定より1日早く帰国する事が出来た。
荷物を受け取りゲートを出る。
人が多いのは三連休の最終日だからだろう。
予定通りの月曜に帰国すればここまで人が多くなかっただろう。
「ちっ・・・」
走り回る子供にぶつかりそうになり、思わず舌打ちをしてしまう。
建物から出ると、出国の際預けた車が来ていた。
「お帰りなさいませ、跡部様」
「ああ。予定を繰り上げたのに助かった」
「とんでもない。またのご利用をお待ちしています」
受取書を渡すとトランクが開き、そこに荷物が詰め込まれる。
もう一度礼を言って運転席に乗り込み、車を走らせた。
下道から高速に乗り、都内を目指す。
今から帰れば夕飯に間に合うだろうか?
大学から付き合い始めて10年、三年前から同棲を始めた彼女の事を考える。
俺が一緒の時は食事を作るが、1人になるとカップラーメンが主食となる彼女。
今夜もきっとカップラーメンを食べるのだろう。
早く帰って一緒に飯でも食いに行くかなどと考えていると、スマートフォンが着信を知らせる。
車に乗り込むと勝手にカーナビと連動するから、運転していても電話が出来る。
ナビに表示されたのは【不二周助】の名前だった。
「はい」
『やあ、久しぶり』
「珍しいな」
『ちょっと気になる事があって。もしかして運転中かい?』
「ああ」
『それじゃあ単刀直入に言うよ。今日、見合いしたんだけど』
「結婚するのか?」
『跡部の回答次第かな』
「俺の?」
『相手の名前、さんって言うんだけど』
「は?」
『独身生活にピリオド打っても良いかな?』
マンションの地下にある駐車場に車を停めて荷物をトランクから出してエレベーターに乗る。
ポケットからキーケースを出して部屋のドアを開ける。
玄関を抜けてリビングに入り、スイッチを押して部屋の明かりを点ける。
寒々とした部屋からが長時間いない事が分かる。
上着とジャケットを脱いでソファに座る。
「ふぅ・・・・・・」
足を組んで目頭を指で押さえ、時差ボケの頭を回転させる。
何故、俺と言う恋人がいて見合いをするのか。
上司に言われて仕方なく
けれどこれならば俺に話しがあっても良いはずだ。
俺に黙ってる以上、隠しておきたい理由があるはず。
その理由は?
考えている所に玄関から音がした。
多分、が帰って来たんだろう。
リビングのドアが開き、コンビニの袋片手にしたがいた。
「あれ?帰国って明日だよね?おかえり」
「一日早くなったんだ。こそどこに言ってたんだ?」
「お見合い」
「は?」
「いると思わなかったから景吾の食事無いけど・・・・・・あ、カップ焼きそばならあったかも」
「ちょっと待て」
「あ、カルビ弁当が良い?」
「そっちじゃねえ!」
「お腹ペコペコなの」
は冷蔵庫からビールを取り出し、テーブルに弁当を広げて「いただきます」と食べ始めた。
「俺がいるのに何で見合いなんだよ」
「は?景吾だって先月してたじゃない」
「なっ!?あれは親の関係で」
「その違いが分からない」
「俺は結婚なんてする気がねえんだよ」
「・・・・・・あっそ」
「それだけか?」
「何で景吾に責められる様な言い方されないといけないの?」
「お前、ふざけてんのか?」
「大真面目だけど?」
「俺と別れるのか?」
「そうなるね?」
「俺との結婚は考えた事ねえのかよ」
「あるよ?けど景吾は興味示さなかったじゃない」
「いつ」
「同棲始めた頃?いや、その前かな?ブライダルフェア行きたいって言ったら必要無いって」
「ああ、あれか。どうせオーダーメイドだから必要無いだろう」
「はぁ?」
「お前・・・俺が何も考えずに同棲始めたとでも思ってねえよな」
「・・・・・・え?」
「目、泳いでるぞ」
「結婚する気あったの!?」
「無いのに同棲するか?」
「一般人の普通と景吾の普通は違うもん!!!!」
「この間見合いしたのは子供の頃からあった話で仕方なかったんだよ。まあ、断ったけどな」
「・・・・・・」
「今回の出張も周りを黙らせる為のモンだったしな。これで俺の方は準備が整ったぜ?チャンよ」
「うそ・・・」
「後はお前だな」
するとは顔を歪めて隣に座り、「けぇごぉ・・・」と言って抱き着いて来た。
「不二は結婚する気マンマンだったからな」
「ちゃんと断る・・・・・・」
「そうしろ。で?いつになったらキス出来るんだ?」
「うっ・・・・・・ニンニク料理食べちゃった」
「良いから。早くお前を感じさせろ」
自分の足の上に向き合う様にを座らせると、おずおずと唇を寄せてくる。
その首に手を添えて引き寄せ、久しぶりに彼女の熱を感じ取った。
そしてベッドへ移動し寝ている彼女の指にニューヨークで買った3つダイヤが付いたエンゲージリングを嵌めた。
「今日はさんとの食事なのに、何で跡部までいるのかな?」
「うるせぇ。見合い断られたんだろうが」
「二人共知り合いだったんだ」
「ねえ、さん。跡部に飽きたら僕の所においで」
「え?」
「飽きるかよ」
「さんは素敵な人だけど、跡部は・・・ねぇ」
「人の婚約者口説いてんじゃねえよ」
「いいじゃないか、口説くくらい。ねえ?さん」
「えー・・・あははは」
2018/01/16