Baby Steps
マリアの誓い
中学二年にフロリダに渡って丸4年。
テニス三昧の日々で慌ただしく毎日が過ぎてゆく。
「あなたのリラックス方法は?」
記者から良く聞かれる質問。
無難に「家でゆっくりする事です」なんて答えているけど、
『彼女と』って単語が抜けている。
これは彼女からキツク言われてるからだ。
彼女と言うのはと言って、俺がアカデミーに来た時にいた4つ年上の女性だ。
日本人で父親の仕事の関係でアカデミーの傍に住んでいる。
食事の時などに会って、日本語で会話できる数少ない人だった。
そんな彼女にいつしか想いを寄せる様になり告白。
「爽児は単に日本語が喋れて良くして貰った気持ちを勘違いしてるだけ」と断られた。
そんな事があったにも関わらず、彼女の態度は変わらなかった。
翌年にも告白したが「爽児の想いは勘違いでしかないよ。小さい時の好きと同じ」と。
自分が脚光を浴びている時、彼女は思い悩んでいた。
あれは暑い夏の日で、窓の外は雷雨。
「私、8月いっぱいでここを辞める事にした」
何気ない会話の中で紡がれた言葉。
思わず口にしていた物を吹き出すかと思った。
「な、なんで!?」
「私はプロになれないと思い知らされたから・・・かな?」
確かに彼女の成績が伸びていないのは知っていた。
それはスランプだと思っていたし、この時間は続いていくものだと思っていた。
それだけにショックで仕方ない。
8月いっぱいなんて後2週間も無い。
それなのに彼女は常に笑顔。
きっと思い悩んでたに違いないのに・・・
愚痴すらも言ってくれない、頼られていない自分に腹が立った。
止めた後も会いたいから連絡先を教えて欲しいと言っても彼女は首を縦に振らない。
「どんどんメジャーになって行く爽児は私と会う暇なんてなくなるよ」
「メジャーになる爽児と一緒にいられない」
そんな言葉を並べ立てられたが、最後の最後で折れてくれた。
それから可能な限りメールや電話を入れた。
自分の誕生日に会える事になり、再び告白をする。
「もう16だし、アメリカじゃ大人扱いだろ?」
まだ頷いてくれない彼女に、ありったけの言葉を尽くした。
彼女への想いが家族や友人に対する物では無いと。
一緒にいる時間が減っている今も、色あせる事の無い想いなんだと。
「本当は爽児を見た瞬間から好きだった」
涙を浮かべた彼女を思いっきり抱き寄せる。
自分の腕の中におさまる彼女に、今まで以上の感情が湧き上がって来た。
きっとこれが『愛』ってヤツなんだろうな。
「・・・じ、爽児。寝るならちゃんとベッドに」
「ん・・・」
目を開けるとが心配そうに俺を見てる。
どうやら練習が終わってソファで寝ていたらしい。
彼女の腕を掴んで引っ張ると、俺の方に倒れてくる彼女。
それを思いっきり抱きしめ、頭にキスをする。
「あ、危ないな・・・」
「ん?んー」
「爽児?」
「夢を見てたんだ・・・」
「うん」
「が俺の告白に頷いてくれた日の」
「懐かしいね」
「あの頃、絶対想いは変わらないと思ってたけど、変化してるなーって」
「そうなの?」
「うん」
「寝るならベッドでね」
「せっかく自分の誕生日でも来てるのに?」
「アスリートらしくない台詞ね」
「そう?テニスプレーヤーの前に男だし」
彼女を抱きしめたまま、反対の手を彼女の服の中に忍ばせて行く。
すると「んっ」と鼻に掛かった甘い吐息が漏れる。
「だからベッドで」
「はいはい」
状態を起こして彼女をお姫様抱っこする。
そして文句を言いそうな唇を塞ぎ、寝室に連れて行く。
ベッドに彼女を寝かせて多い被さり、手を押さえつけながら再びキスをする。
息継ぎで開いた隙に舌を差し入れ、彼女のソレを絡め取る。
唇を離して彼女を見下ろせば、潤んだ目。
「俺、18になったんだけど」
「誕生日おめでとう」
「これでやっとと結婚出来る」
「・・・・・・え?」
「契約とか色々あるからプロポーズはまた今度ね」
「ちょ・・・え?・・・まっ・・・んっ」
「お喋りお終い。今から俺に愛されててよ」
多分デレた顔をしてるだろうから隠すように彼女の首筋にキスをする。
「まっ・・・爽児!」
「・・・・・・何?」
顔を上げると両手で頬を挟まれる。
彼女の顔も赤くなっている。
「私も爽児を愛してるよ」
泣きそうになる程何かが溢れてきて
それを言葉にする事が出来なくて
言葉にならない気持ちを伝える様に、彼女を抱いた。
2016/12/05