Double Score

名取周一

the last of the story

「……っ…た」

夜中に目が覚めると、キッチンから話し声がする。

それは大抵一緒にベッドに入ったはずの男の声。

「・・・・・・周一?」

「ああ、すまない。起こしてしまったかな?」

男はキッチンからペットボトルの水を持ちながら歩いてベッドに戻ってきて腰掛けた。

その衝動でベッドが揺れる。

「飲むかい?」

「ええ・・・」

腕を付いて上半身を起こし、差し出されたペットボトルを受け取る。

キャップはされておらず、顎を上に向けて水で喉を潤す。

「普通は胸を隠すとかするんじゃないのかい?」

「ん?・・・ああ、だって全部見てるじゃない」

下着と言うか、衣類を何も身にまとってないままでいたら指摘された。

何度もセックスをしている相手に今更隠した所で仕方ないだろう。

「それは誘われてると受け取っても良いのかな?」

「起こされたんだから眠れる様にしてくれる?」

「それ、この間のドラマの台詞だね。良いよ、眠らせてあげる」

手の中にあったペットボトルが消え、代わりに彼の体を抱きしめた。




私は

』と言う芸名で女優をしていて、そこそこに売れていると思う。

ドラマで知り合った名取周一とは恋人・・・と言う関係っぽい。

断言できない理由としては好きとか愛してるとか聞いた事がなければデートもしていないからだ。

「今夜言ってもいいかい?」

彼の言葉だけなのに、甘い台詞なんて無いのに、その言葉に縛られる。

甘い台詞が聞けるのは、心の篭っていない言葉だから。

「今日も綺麗だね」は彼にとっては挨拶と同じで「愛してる」はカメラが回っている時に聞ける言葉。

だから彼は私の事を知らない。

本当は、彼が誰と話をしているのか分かっている事を。

『今夜行っても構わないかい?写真は今いる場所だよ』

ドラマの撮影の合間に届いたメール。

添付されてた写真には山々が映っていた。

彼は時折こうして田舎に行っている。

何をしているのかまでは分からないけど、最近それが増えた気がする。

そして夜になり、彼が「ワインを買って来たよ」と家に来た。

ボトルを空にし、お風呂に入って寝る準備を済ませてベッドへ向かう。

周一はベッドの端に腰掛けて誰かと話している様だ。

一歩足を進めると相手が見えて柊だと分かる。

二人の様子からすると、何やらトラブルがあったらしい。

「・・・・・・夏目が・・・」

「・・・・っ・・・・・・夏目に・・・・」

この分だと彼は帰ってしまうだろう。

何も考えないでいたのがまずかった。

ふとこちらを見た柊と視線が合ってしまう。

「ああ、。すまない、急ぎの用事が出来てしまった」

本当に悪いと思ってる?

私より優先する事なの?

貴方の一番は私じゃないんだ・・・

そんな感情が渦巻いていて、それを鎮めるために目を閉じる。

深く息を吐き出して意図して周一を見る。

彼は着替えを済ませ、上着を着ているところだった。

玄関まで見送り、鍵を閉める。

なんだか馬鹿馬鹿しくなったので、冷蔵庫から材料を取り出してつまみを作り、酒を煽った。




ふと寒さで目が覚める。

ゆっくり瞼をあげて現状把握するとソファでうたた寝していたらしい。

身体を起こしでソファに座ると横に人影があった。

「ああ、柊か・・・」

「お主、やはり見えているのだな」

「え?・・・あっ!!!!」

その瞬間柊の姿が消え、少ししてインターフォンが鳴る。

画面に映ったのは周一だった。

急いで玄関に行って鍵を開ける。

「遅くにすまない」と言って彼が立っていた。

そして体を滑らせるようにドアの内側に入り込んで来た。

「上がっても?」

「えーと・・・」

「テーブルが片付けてないのは気にしないで良いよ」

それで部屋に入り、テーブルに散らかっている皿やグラスを片付け始めた。

自分でした事だし、キッチンへ行ってそれらを洗う。

洗い物が終わってリビングへ。

「それで・・・いつから見えてるのかな?」

「見えてる?」

「妖だよ」

「ああ・・・それって何か関係あるの?」

「勿論」

「記憶にないかな」

「俺といて見える様になった訳じゃないんだね?」

「それは・・・ない」

「そうか・・・」

周一はほっとしたように息を吐き出した。

明日はお互いオフなのもあり、色々話しをした。

私の事も、周一の事も。

「夏目貴志です、初めまして」

翌日、彼が今一番気がかりだと言う男の子を紹介された。

彼は妖が見える事で血縁から疎遠になり、現在に至ると。

さんは子供の時に、そういう経験無かったんですか?」

多分貴志くんはそれで苦労したのだろう。

私に質問するのも一瞬ためらっていた。

「母親には気味悪がられて養成所に入れられたの。だから友達とかも「演技の練習してるんだ」って思う様になったみたい」

「なるほど」

「昔から変わった子供だったんだね、君は」

「それ周一が言う事?」

「似たもの同士なんじゃないですか?」

「どういう意味だい?夏目」

「そのままの意味で・・・」

この二人はこの二人で仲が良いらしい。

兄弟と言ってもいいくらいだ。

「今日はありがとうございました。まさか恋人まで紹介して貰えるとは思いませんでしたけど」

「ああ、違うよ。近々結婚しようと思ってるから奥さんかな?」

「そうなんですね。おめでとうございます」

「え?」

「何を驚いているんだい?将来を共にしようと思うからこそ祓い屋の話をしたのに」

「いや、だって・・・」

「なんだか当てられそうなので先に帰ります。さん、また」

「え?あ、うん・・・え?ばいばい?」

「また連絡するよ。それじゃあ、。帰ってゆっくり話をしようか」

肩越しに振り返って柔らかな微笑みを浮かべる彼が手を差し出す。

だから私は、その手に自分の手を重ねた。



2018/01/30